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文化・芸能
朝日新聞社

前衛短歌の旗手、皇居に 岡井隆の世界

初出:2015年2月16日〜2月27日
WEB新書発売:2015年3月26日
朝日新聞

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 両陛下や皇族方の和歌の相談役である御用掛(ごようがかり)を務める歌人・岡井隆は、かつて「前衛短歌の旗手」とも言われた。なぜ、かつての左翼が天皇制を受け入れるようになったのだろう。「前衛短歌もやはり定型詩であり、韻律が何よりも大事。万葉集以来ずっと流れてきた和歌の伝統を大事にしなければ」。短歌に関する考え方の変化が、日本文化全体に対する考え方の変化になっていった、という。

◇1 ことばの職人として突き詰めたい
◇2 戦後の開放感、疎開先で自然を詠む
◇3 短歌に逆風、よくぞ続けたなあ
◇4 おれは医者の仕事も詠んでいる
◇5 政治から芸術へ、移ろう情熱
◇6 「民衆派」の考え方も受け継いだ
◇7 九州へ「とんずら」5年間の空白
◇8 故郷近くに転居、歌への思いも戻る
◇9 守るべき伝統、年齢重ねて気づいた
◇10 歌のため、ここに生きている


1 ことばの職人として突き詰めたい


 ――天皇、皇后両陛下と皇族方の和歌のご相談役である御用掛(ごようがかり)を務めていますね。しかし、かつてはやや過激な「前衛短歌の旗手」。二つのイメージがどうも結びつきにくいのですが。

 そう? ぼく自身はどっちかというと、意味内容よりはレトリックを重視しているんです。この豊かな日本語の修辞の面を大事にしたい。ことばのアルチザン(職人)として、短歌を究極のところまで突き詰めたいという思いが強くてね。

 ――なぜ前衛に向かったのですか。

 若いころ、みんなから「歌が上手だね」と言われました。すると「ああ、技巧的な意味で達者なんだな」と思うじゃないですか。じゃあ、そこを伸ばしていこう、と考えたわけ。

 ――音楽で例えるなら、モーツァルトに満足せず、より難解な曲に挑むような……。

 そういうことです。ただ、モーツァルトのほうが心地がよくて、シェーンベルクの無調音楽まで行くとウハウハと喜べる感じではないわけね。だから、そのへんの兼ね合いは難しい。どこか楽しませる部分がないとつまんないんじゃない?

 ――そういえば、大橋巨泉さんが万年筆のCMでやった「みじかびのきゃぷりきとればすぎちょびれすぎかきすらのはっぱふみふみ」を評価していましたね。

 1996年の「現代百人一首」という選集の一首に入れました。同時に皇后さまの歌も。タブーだったんだよ、あんなところに皇后さまの歌を入れるなんて。あれは、かなりの勇気とかなりの遊び心で臨みました。

 ――さまざまな試みをしてきました。例えば82年の歌集には、異様に長い詞書(ことばがき)を添えた歌があります。「建礼門院右京大夫って、いかなるおばさまか知らないけど、ふくる夜のねざめさびしき袖のうへを、ってよむわな。音にもぬらす春の雨かな。たまに上京するときまって雨。傘がない 井上陽水、って気分。」とあって、ようやく歌が現れる。「弱酸(じゃくさん)ののどをくだりてこころよきクリムトを経てシーレをぞ恋ふ」。そこに陽水とは!
 陽水は初期から聴いているんです。すごいと思いますねえ。彼はね、世界に通じますよ。
 相撲の力士が花道で斬りつけられる歌があるでしょ?

 ――「事件」ですね。

 聴いたとき、驚いちゃってね。いま、そんなもん出したら大変でしょう。暴力や性行為に結びつくようなものはタブーですから・・・

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