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朝日新聞社

復活するオウム真理教 地下鉄サリン事件20周年に問う

初出:2015年3月16日〜3月20日
WEB新書発売:2015年4月2日
朝日新聞

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息を止めるクンバカ修行や松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の過去の説法を暗記する特別教学。呪文のような言葉を唱えながら板張りの道場の床に体を投げ出す立位礼拝……。一昔前の話ではない。オウム真理教から派生した宗教団体では、今もこんな修行を実践し、新たな信者を集めている。2014年1月〜11月の入信者の6割以上が35歳未満と、若者の姿も目立つ。13人が死亡し、6千人以上が負傷した地下鉄サリン事件があった地下鉄サリン事件20周年。私たちはあの事件から何を学べたのか。教団の現状の報告と合わせて、識者や関係者の思いをレポートする。【登場する人々=敬称略】上祐史浩(「ひかりの輪」代表)、秋田光彦(應典院住職)、森達也(映画監督・作家)、米村敏朗(元警視総監)、菱沼美智子(夫を失った遺族)

◇第1章 若者ら今も「麻原崇拝」
◇第2章 宗教の社会的貢献 見直す
◇第3章 社会変えた 不安と恐怖
◇第4章 慎重捜査 テロ集団化許す
◇第5章 元の生活には戻れない


第1章 若者ら今も「麻原崇拝」

 オウム、グル、シヴァ大神に帰依し奉ります――。
 名古屋市の国道沿いにある4階建ての雑居ビル。呪文のような言葉を唱えながら、蛍光灯に照らされた板張りの道場の床に体を投げ出し、はわせる。
 30代の男性会社員は、この「立位礼拝」という儀式をひたすら繰り返していた。傍らにある祭壇には、グルと呼ばれるオウム真理教の元代表・松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の写真。松本死刑囚は、かつて自分をシヴァ神の化身だと言っていた。
 道場にはたくさんの仲間がいた。多い日は50人。20〜30代前半が中心だった。
 息を止めるクンバカ修行や、松本死刑囚の過去の説法を暗記する特別教学。在家信者だった男性は出家信者からの指導を仰ぐ。
 13人が死亡し、6千人以上が負傷した地下鉄サリン事件があった1995年の話、ではない。いくつかの悩みを抱えた男性が入信したのは、2013年3月だった。

◎SNSで勧誘 半年後、正体明かす 
 きっかけはSNSだった。「無料で手相占いをします」。12年9月、男性は指定された名古屋市の自宅近くのマンションを訪れた。「体が強くないですね。ヨガをやってみるといいですよ」。週1回、仕事終わりにヨガ教室に通うようになった。足を組む蓮華座(れんげざ)のポーズをとり、呼吸法を学んだ。頭痛持ちだったが、治りが早くなった気がした。


 15年3月、記者が男性から話を聞いた。
 指導役たちは命の尊さを切々と説いた。このころ詐欺商法に引っかかり自己嫌悪に陥っていた。人間関係を築く方法にも悩んでいた。会社の同僚には相談できない、そんな話を彼らは批判せずに聞いてくれた。
 13年3月、初めて「アレフ」だと打ち明けられた。「私たちの先生は麻原さんです」
 アレフはオウムから派生した2団体の一つだ。えらい所と関係を持ってしまったな、と自らの身を案じた。地下鉄サリン事件の当時は中学生。概要は知っていた。
 一方で、この半年の経験が、何より代え難いものになっていた。虫も殺すなと教えられたのに、あの事件は本当にオウムがやったのか、と思った。家族に伝えず入会し、週2〜3回、アレフの名古屋道場に通うようになった。年齢の近い、引きこもりだった人たちや霊感が強いという人たちと修行を重ねた。
 疑問を持ち始めたのは、埼玉で13年9月にあった3泊4日のセミナーだった。「1日で1年分の修行に値する」という触れ込みで、参加費は5万円。仕事の都合で遅刻すると「会社なんて行くな」と言われた。食事は1日1回で、睡眠は4時間。2時間ぶっ続けで立位礼拝をし、聖地巡礼と称して松本智津夫死刑囚がいる東京拘置所の周りを3周歩いた・・・

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