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世相・風俗
朝日新聞社

「お父さん、一人じゃ生きていけないんだ」 愛にさまよう男と女

初出:2007年4月3日〜4月7日
WEB新書発売:2015年4月23日
朝日新聞

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 つんのめるように働いて、オニと呼ばれる女性プロデューサー。亡き妻の面影を追いながら、1カ月で13人と見合いした男性。巻髪をキメるのが毎日の最大の仕事という主婦。ウクライナ出身の女性とロシア語でメールを交わすのが楽しみの会社員…。日々に流されながら、寂しさを抱える男と女。心の結びつきを求めてさまよう姿を描く。(年齢、肩書は掲載時のものです)

◇第1章 オニが白無垢を着た日 南風が吹く薄曇り
◇第2章 かごの中で女の鮮度が落ちる…不満の泡、増殖
◇第3章 62歳から見合い50回 亡き妻に似ている再々婚相手
◇第4章 私たちどうするの 脅迫に思えた40代独身男性
◇第5章 ホストに2500万円。続かなければ終わり


第1章 オニが白無垢を着た日 南風が吹く薄曇り

 オニになっていた。
 つんのめるように働いて、オニと呼ばれる女性プロデューサー、37歳。
 舞台を中心に働く。デニムとフレンチカジュアルの真っ赤なパーカできゃしゃなからだを包んでいる。まっすぐな茶色の髪をひとくくりにして、本音と建前のうずまく現場を走る。
 「アンテナが時代とずれたら、この仕事をやめるとき」
 啖呵(たんか)を切る。新米だから、ベテランだから、という言い訳は、なし。仕事の成果をはっきり求める。
 「あはは、それで、オニです」。切れ長の目を下げてくしゃっと笑う顔は、意外なほどあどけない。
 華やかに見えるショービジネスの舞台裏。準備で夜を徹して資料を読む。人脈は会食を重ねて広げてきた。勉強のため休暇には芝居を見に海外に出かけた。自分に投資した額で、外車1台買えただろう。
 当然、組織でぶつかる。20代の終わり、人間関係に悩み、からだをこわした。「いてもたってもいられず現実から逃げるように」衝動買いしたマンション。兵庫県の阪急沿線の3LDKはそれまでのワンルームマンションの3倍も広い。だれと暮らすあてもないのに。
 折も折、母の友人に見合いをすすめられた。3回試みた。「向いていませんでした。結婚は、条件の善しあしでするもんじゃない。私のほしいものは違う」
 いっそう仕事にのめりこんだ。無名のダンサーの公演やこれまでにない演出の舞台を成功させた。「ゼロから有を生み出した実感を味わい、仕事の山をひとつ越えた」と思えたのは30代半ばだった。
   ◇
 でも何? このさみしさは。取り残されたような、何か多くを失ったような。
 20万円の痩身(そうしん)エステに走った。50万円払って3カ月、英会話に通った。ワインセラーを訪ねてフランスへ旅した。
 「いま思えば……。何してたんやろ。われながら痛い人やなあ」
 もう一度山を登る気力が尽きようとしていた。去年の梅雨時、取材の場でフリーカメラマンと出会う。のびやかな写真を撮る人だなと、心に残った。
 ほどなく2度目の出会いは蒸し暑い体育館のけいこ場。撮影の合間に「飲みにいこう」と誘ってきた。とっさに「社交辞令は嫌いです」と答えていた。でも、社交辞令に終わらせたくないのは彼女のほうだった。メールして、会う約束をした。
 カメラマンは七つ年下。素直な気持ちで話ができた。自分の親、好きな水泳。仕事を離れた話。いつの間にか3時間。こんなに自分の話にじっくり耳を傾けてくれる人はいなかった。
 2度目のデートは彼女のマンション。半年後、一緒に暮らし始めるときには結婚を決めていた。
 「もうすぐ40歳じゃないか」
 彼の一言が胸をついた。子どもがほしい。それを察して、早く一緒になろうと投げかけてくれた・・・

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