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朝日新聞社

プロメテウスの罠〔62〕宮司は残った

2015年04月30日
(13900文字)
朝日新聞

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 東京電力福島第一原発事故のため全村避難が決まり、無人のはずの福島県飯舘村に、1人で住み続ける宮司がいる。「宮司が神様のところを離れる訳にはいかない」と語る綿津見神社宮司の多田宏さんは、境内を除染し、神事を続ける。だが、避難先での定住を決めた氏子に地鎮祭を依頼されることも増えた。綿津見神社と多田さんは、原発事故ですべてが変わっていく村を見守っている。いつか、村に人が帰ってくる日を信じながら。

◇第1章 今年も静かな年明け
◇第2章 この人ら、どこへ?
◇第3章 神様は動けねえんだ
◇第4章 北陸から物資を運べ
◇第5章 悲しい「野生の王国」
◇第6章 あきらめた見守り隊
◇第7章 元の神社への「分霊」
◇第8章 祭りも神棚も縮んだ
◇第9章 地鎮祭に複雑な思い
◇第10章 母の急死に募る無念
◇第11章 焼け落ちた村の神社
◇第12章 オオカミの絵も焼失
◇第13章 樹齢100年のスギ伐採
◇第14章 見通し立たぬ賠償
◇第15章 厄払いも村の外で


第1章 今年も静かな年明け

 2014年の大みそか。深夜に入り、福島県飯舘村は雪がしんしんと降り始めた。
 道は見る見るうちに白くなり、中央線の位置さえ分からなくなった。
 福島第一原発から放射能が降り注ぎ、11年5月に全村避難が始まった。
 それから3年7カ月。
 誰も住まない村は、静か過ぎる年末を迎えていた。
 誰もいないはずの、村役場の北約3キロにある綿津見(わたつみ)神社は、拝殿や社務所に明かりがともっていた。
 参道の石畳は雪が掃き清められ、左右に一対のかがり火が据えられた。
 拝殿では、白衣を着た氏子らが大小様々なお札を神前に並べていた。
 事前に祈禱(きとう)を申し込んだ参列者もポツリポツリと集まり始め、30人ほどになった。
 日付が変われば新年最初の祭礼、歳旦祭(さいたんさい)だ。
 宮司の多田宏(ただひろし)(67)は祭壇の脇に据えた太鼓を自ら打ち鳴らし、祭りの始まりを告げた。


 全村避難から最初の正月、12年の参列者は5、6人だった。その周りを10人近い報道陣が囲んだ。
 それから少しずつ、参列者が増えている。信仰心はまだ生きているな、と多田は思った。
 「たかまがはらにかむづまります
  すめらがむつ
  いざなぎのおおかみ……」
 神々の名を恭しく述べ、祝詞(のりと)を唱える。氏子らの住所や名前、祈願の内容を一つずつ読み上げた。「身体健全」「家内安全」「受験合格」と願い事は、ほかと変わりがない。
 1時間ほどで儀式が終わり、参列者がお札を受け取って帰ると、境内は急に静かになった。
 次に参拝者が来て、お札を受けて帰ったのは午前7時過ぎだ。
 「少し仮眠できました」
 神社の元日は普通、暗いうちから初詣の人たちが列をつくってさい銭を投げ、柏手(かしわで)を打つ。
 しかし、綿津見神社は震災後、そんな風景とは無縁になった。
 多くの村民が避難する福島市からでも、山道を車で小一時間かかる。
 いくら元旦でも、無人で真っ暗な村に帰るのは気がひけるらしい。
 しかし、多田はあの日からずっと神社に住み続けている。
 「宮司が神様のところを離れるわけにいかないでしょ・・・

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プロメテウスの罠〔62〕宮司は残った
216円(税込)

東京電力福島第一原発事故のため全村避難が決まり、無人のはずの福島県飯舘村に、1人で住み続ける宮司がいる。「宮司が神様のところを離れる訳にはいかない」と語る綿津見神社宮司の多田宏さんは、境内を除染し、神事を続ける。だが、避難先での定住を決めた氏子に地鎮祭を依頼されることも増えた。綿津見神社と多田さんは、原発事故ですべてが変わっていく村を見守っている。いつか、村に人が帰ってくる日を信じながら。 [掲載]朝日新聞(2015年2月20日〜3月6日、13900字)

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