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世相・風俗
朝日新聞社

ウェブカメラでつないで「同棲」 43歳、8カ月でスピード婚

初出:2007年6月26日〜6月30日
WEB新書発売:2015年5月14日
朝日新聞

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 東京の自分の部屋と10歳下の彼女が住む千葉の部屋はウェブカメラでつなぎっぱなし。「じゃ、寝るね」と声を掛け、電気を消す。生活が丸見えなのにわずらわしくない。むしろ気配を感じるのが、居心地よかった。「彼女とならやっていける」。毎日が猛スピードで動き始めた――。5人の男女の結婚への思いと現実を描く。誰かに思われたい。そばにいてほしい。でも、誰でもいいってわけじゃない。(年齢、肩書は掲載時のものです)

◇第1章 派遣15年、正社員との恋はしない
◇第2章 TV電話で「仮想同居」。いまも家電がつなぐ
◇第3章 恋人できず60年、焦がれる心を今もつづる
◇第4章 みかん農家の妻、夫から便箋2枚の離婚宣告
◇第5章 今年30歳「アラサー」、妥協で結婚はしない


◇第1章 派遣15年、正社員との恋はしない

 「わがまま検索」は当然だと思っていた。
 東京23区。大手・上場企業。残業なし。土日休み。
 派遣会社のホームページで希望する項目にチェックを入れてクリック。条件に合う会社の名前がずらりと出てくる。働きたいところを選んでエントリー。相手の会社もOKなら、そこが職場になる。
   ■     ■
 派遣先だけではない。仕事も男性も結婚も、条件を設定して選べると信じていた。
 午前10時。会社でパソコンを立ち上げる。今日もひたすら書類を作成。ときどき、キーボードをたたく手を止めてツメにこっそり見入る。つややかな光を確かめて満足し、再び画面に目を戻す。
 30代も後半になった。東京近郊に両親と住む。休みの晩は早めに入浴を済ませ、自分の部屋にこもる。机に向かい、卓上の蛍光灯を下げて指を照らす。ツメをやすりで削り、オイルで甘皮をやわらかくし、下地を塗り、ベージュのマニキュアを塗る。ツメ先には白や銀色を塗ってオリジナル感を出す。
 派遣社員になって15年。数日間の短期も含めると、働いた会社は10社にのぼる。そこで学んだこと――。とにかく目立ってはいけない。広がる天然パーマは毎朝、ヘアアイロンを当てて伸ばす。服は黒やグレー。ネイルアートだけが、私らしさを表す。



 短大を卒業後、さらに1年、グラフィックデザインの専攻科に進んだのが間違いだった。就職氷河期の始まりに当たった。前年、この短大から10人の正社員を採用していた会社も求人がゼロだった。
 卒業生を頼り、デザイン会社でアルバイトを始めた。マンションの部屋に、28歳の男性社長とバイト2人。不況のあおりで仕事がない。パソコンのマニュアルをめくって時間をつぶした。
 ある日、社長に言われた。「いられても困るから、1カ月後にやめてくれないか」
 子どものころから、絵が得意だった。ほかの人とはセンスが違うと思っていた。でも、こんなに必要とされないなんて。自信が砕けた。
 描いていたのは、デザイナーとして安定して働くこと。その理想を捨てざるをえなかった。22歳。派遣会社に事務職で登録した。
 だったら、結婚相手だ。
 「大手」「駅に近い」などの条件で検索し、都内の建設関連会社で働き始めた。社員のアシスタントとして書類を作成する仕事。隣の席の男性が気になった。スーツが似合う。眉が太く、男っぽい。
 「この事業の目的は――。だから必要な書類は――」。指示が細かくわかりやすい。
 社員の写真帳をめくった。彼の最終学歴は東京の有名私立大の大学院。理系の頭脳はすっきり整理されているんだろうな。気に入った。
 彼の机の上に浅田次郎の本を見つけた。話しかけるチャンスだ。
 「この本、読んでみたかったんです」
 「面白かったですよ。貸しましょうか」
 彼の物を持っているだけでドキドキした。お礼は、重くならないようマイルドセブン2個。黄色いふせんに「また、本の話ができたらいいですね」と書いて返した。28歳で結婚、30歳までに出産という理想の未来図が広がった。
 でも反応はなく、それっきりだった。
   ■     ■
 そんなころ。「男性社員の間で、セクシーだと評判になってるよ」。昼休み、社員食堂で派遣仲間に言われた。
 身長166センチ、体重52キロ。胸はEカップ。顔は地味だけど、体は注目されるのか。服を買う店を変えた。胸が大きくあいたシャツ、スリットの入ったスカート。ハイヒールでカツカツ歩いた。できる女のイメージを作った・・・

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