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政治・国際
朝日新聞社

満州国の幻影 改憲へひた走る安倍晋三と祖父・岸信介の原点

初出:2015年5月20日〜6月9日
WEB新書発売:2015年6月25日
朝日新聞

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 安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使容認、安全保障法制、戦後70年談話、そして憲法改正へと突き進み、国のかたちは大きく変わりつつある。首相の発想の原点には、日米安保条約改定に執念を燃やした祖父・岸信介元首相と、その岸が政治家の道に進むきっかけとなった満州国がある。現地取材を交え、安倍氏の発想のルーツをたどり、日本のこれからを考えてみたい。

◇序章1 改憲へ、祖父の背中追う/「日米対等」求め安保改定―集団的自衛権
◇序章2「満州国」岸元首相の原点/産業開発進め、国家統制を主導
◇第1章 獄中、岸氏「東京裁判は偏見」
◇第2章 若者が支持、追放解け国政へ
◇第3章 占領政策に憤り、改憲論者へ
◇第4章 自民結党、改憲が「党是」に
◇第5章 改憲戦略、まずは安保改定
◇第6章 安保闘争、くじかれた改憲
◇第7章 米との距離感、祖父と異質
◇第8章 非戦唱えた、もう一人の祖父
◇第9章 岸より安倍、父はこだわった
◇第10章 祖父批判への反発が原点
◇第11章 特攻志願の父「誤った戦争」
◇第12章 長州の思想家、松陰に危うさ


序章1 改憲へ、祖父の背中追う/「日米対等」求め安保改定―集団的自衛権

 「1957年6月、私の祖父、岸信介はまさにここに立ち、日本の首相として演説を始めました」
 2015年4月29日、日本の歴代首相として初めて米議会上下両院合同会議での演説に臨んだ首相の安倍晋三(60)。冒頭、58年前の岸の演説を引用しながら、自身の演説を始めた。
 旧日米安全保障条約の改定に執念を燃やした岸。安倍は、そんな岸の背中を追い続けてきた。
 「昔、おじいちゃんが安保闘争のとき、デモ隊にあんなに囲まれたのによくやったよなあ。たぶんいまの支持率だったらゼロ%だろう。やっぱりすごいよな」
 安倍は官房副長官だったとき、かつて岸がいた旧首相官邸の窓から外の景色を眺めながらつぶやいた。秘書官だった井上義行(52)=現参院議員=の忘れられない光景だ。
 岸の悲願は、憲法改正で「真の独立日本」を完成させること。旧安保条約は、米軍に日本国内で起きる内乱の鎮圧を認めるなど、「内政干渉」「不平等条約」という批判が強かった。岸にとってみれば、安保改定とは米国と対等な関係を築くために克服しなければならない課題だった。
 安倍は首相就任後、集団的自衛権の行使容認に取り組む。安倍にとって、岸が対等な日米関係を目指した安保改定の延長線上に、集団的自衛権の問題があった。
 岸は国家主義者の印象が強いが、直線的ではない複雑な政治行動を取った。東条英機内閣では、首相の東条と対立し、内閣を瓦解(がかい)させた。戦後は保革連合を目指し、社会党からの出馬も探った。岸が「両岸」と言われるゆえんだ。
 安倍は第1次政権で「戦後レジームからの脱却」という理念を前面に出したが、第2次では経済政策への取り組みを強化し、現実路線を印象付ける。人事では谷垣禎一(70)を自民党幹事長に据えるなど、リベラル勢力を取り込む。岸研究の第一人者である原彬久(はらよしひさ)・東京国際大名誉教授(75)は「安倍氏の中に岸信介がいる」と話す。
 岸は安保改定を実現したものの、悲願の憲法改正への道は途中で断たれた。
 安倍の側近、文部科学相の下村博文(60)は安倍の心中をこう推しはかる。
 「安倍さんは岸信介がやり遂げられなかったことを意識している。憲法改正もそうだ」
 安倍は岸が果たせなかったその先を、歩み始めている・・・

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