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スポーツ
朝日新聞社

スポーツがやめられない 壊れた母と娘…エリート教育考

初出:2014年5月1日〜9月5日
WEB新書発売:2015年7月16日
朝日新聞

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 「ママ、新体操の練習に行って欲しい?」と泣きじゃくる中学生。武道の全国大会団体戦で好成績をあげた小学生は「これで、やめさせてもらえない」と喜ぶ様子もない。やめたくてもやめられない、楽しいはずのスポーツで、なぜ子どもはがんじがらめになるのか。東京五輪の開催が決まり、エリート教育が加速する中、福岡県では最大28競技を経験させ、適性を見極める取り組みが始まっている。

◇第1章 期待しすぎ、壊れかけた娘
◇第2章 競技を変える気まずさ
◇第3章 スポーツ推薦の不条理
◇第4章 メダリスト養成、中高生を選抜
◇第5章 才能・自主性、どう伸ばす
◇第6章 28競技経験、適性見極め


第1章 期待しすぎ、壊れかけた娘

◎指導者横暴/代表の夢、捨てられず
 中学生のアヤ(仮名)が「ママ、練習に行って欲しい? でも、行けない」と泣きじゃくったのは、2013年夏のことだった。玄関を出ようとすると過呼吸になり、食べたものを吐いてしまった。
 東京都のクラブチームで新体操をしていたアヤは深く傷ついていた。前日、足のけがでドクターストップがかかり、次の大会に出られないことを指導者に伝えると、けがしたこと自体をとがめられ、一緒にいた母親もののしられた。
 その前日には、指導者がチームメートを「あなたのミスで全国大会に行けなかった」と罵倒していた。その指導者はもともと保護者たちがいない場では、日常的にミスした子どもを平手打ちや足蹴にしていたが、アヤはこの日を境に、精いっぱいやったことが全く認められないことに悔しさと違和感を覚え始めていた。
 4歳からやってきた新体操は好きだった。クラブ側からは盛んに練習に来るよう連絡があり、何とか通った。だが、指導者の暴言は度重なった。「放課後に練習に行かなければ」と思うと、腹痛とめまいで学校でも保健室で横になるようになった。
 家庭から笑いが消えた。ある日、母親は「死んだ方がましかも」というメールを受けた。元気な姿をみるまでの一日がどれだけ長かったか。だが、母親も新体操をやめさせる、またはチームを移るという選択ができなかった。アヤがクラブから期待されているのがわかる。自分が学生時代に一つのスポーツを全うした経験も、やめることを積極的に勧められない要因になった。
 アヤが拒否感を訴え始めて数カ月。長期出張から帰った父親が「この子が壊れてしまう。おまえも壊れている。自分が『やめさせてくれ』と言いに行くぞ」と母親に告げた。なかなか「うん」と言えなかったアヤも、練習場の前に止めた車の中で、ようやく「わかった」とうなずいた・・・

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