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朝日新聞社

迷走する新国立 カネない・時間ない…計画白紙に

初出:2015年7月8日〜7月18日
WEB新書発売:2015年7月23日
朝日新聞

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 東京五輪のメインスタジアムになる新国立競技場。コンペで決まったデザインは400mの巨大アーチ2本で屋根を支える構造で、総工費はロンドン五輪主会場の4倍ともされる2520億円に膨れあがった。国民の批判を受け、安倍首相は方針を転換、「ゼロベースで見直す」と表明した。これまで「デザイン見直しには61カ月かかる」としていたが、もう50カ月しかない。なぜ対応が遅れたのか。森喜朗元首相の存在は。新国立をめぐる迷走劇。

◇第1章 新国立、折れた都知事
◇第2章 五輪へ公約、誤算の連鎖
◇第3章 止められぬ巨大アーチ
◇第4章 2520億円あったら何ができる?
◇第5章 新国立、計画白紙
◇第6章 民意「NO」政権一転
◇第7章 振り回されたラグビー


第1章 新国立、折れた都知事

◎神宮再開発と「合わせ技一本」
 2015年7月8日午後、東京都庁の知事室がある7階会議室。舛添要一知事は「長年の友人」という遠藤利明五輪担当相をにこやかに出迎えた。
 新国立競技場をめぐり、国は東京都に500億円程度の負担を求める。遠藤五輪相が費用負担を切り出すと、舛添知事はこう応じた。「200(億)になるか、300になるか、800になるか分からない。とりあえず事務方で、都と政府で協議を始めましょう」
 5月18日、同じ会議室で下村博文文部科学相と対面した知事は怒っていた。「楽観的に、すべてうまくいく情報しか上がっていない。大日本帝国の陸軍と変わらない」「(五輪後に)マイナスの遺産を残さない配慮が必要だ」。報道陣に全てを公開した場で、矢継ぎ早に大臣に迫っていた。
 この間、約1カ月半。なぜ態度は一変したのか。
 2020年五輪・パラリンピック組織委員会の事務局で森喜朗会長と会ったのは15年6月18日だった。「これを食べて、甘くなりなさい」。森会長が故郷・石川のハチミツを渡すと、知事は満面の笑みを浮かべた。
 だがこの直前の非公開の会談の中で、森会長は厳しい口調で舛添知事をたしなめたという。組織委幹部は言う。「森さんに釘を刺され、知事は焦っていた」。会談の2日前まで5週連続で続いていた自身のウェブマガジンでの批判も、これ以降ぴたりとやんだ。
 そして迎えた15年7月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)の有識者会議。「五輪やラグビーW杯だけ考えると高くなるが、今後50年先も象徴になるものを造ってほしい」と述べた森会長の次に発言を求められた舛添知事は、事務方が用意した文案を淡々と読んだ。「私は建築の専門家ではない。文部科学省やJSCの責任で、間に合うように造ってほしい」。計画の見直しを迫る最後のチャンスが消えた。
 7月8日の遠藤五輪相との会談で、舛添知事は都の費用負担についての正式な回答は保留したが、事務レベルで協議を始めることは決定。事態は動き出した・・・

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