文化・芸能
朝日新聞社

ケンカ上等、上野千鶴子 社会の常識変えるには

初出:朝日新聞2015年4月20日〜5月8日
WEB新書発売:2015年8月27日
朝日新聞

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 家族や生い立ちについて一切答えなかった時期もあった。「フロイト的な因果物語を作りたがるじゃない? それが気持ち悪くて」。父に溺愛され、専業主婦だった母は反面教師だった。売られてもいないケンカを買って出た「アグネス論争」で有名に。「相手を論破する必要はない。どちらに理があるかを聴衆が判断し、それによって社会の常識も変わっていくんです」。激突型ではなく、聴衆を意識し、勝ち癖をつけてきた。フェミニズムと女性学の先駆者、上野千鶴子さんの生き方。

◇第1章 ケンカ上手見せた「アグネス論争」
◇第2章 原点は、専業主婦の母への反発
◇第3章 未熟な親でも愛してくれたことに感謝
◇第4章 学生運動で味わった女性のジレンマ
◇第5章 「つるんで何するの」リブ運動を敬遠
◇第6章 女同士、やってみたら面白い
◇第7章 大学教師、なんていい職業!
◇第8章 ごまかしなし、ギリギリの人間関係
◇第9章 慰安婦問題、市民の共感示せていれば
◇第10章 「おひとりさま」の老後、考え始めた
◇第11章 家事は不払い労働、常識になった


第1章 ケンカ上手見せた「アグネス論争」

 ――フェミニズムと女性学で、先駆者としての役割を果たされてきました。一般に知られるようになったのは、1988年の「アグネス論争」のころからでしょうか。

 当時、私は地方の短大の教師にすぎなかったけど、朝日新聞に投稿し、売られてもいないケンカを買って出た。いまならSNSで炎上してるんでしょうが、あのころはアナクロの紙媒体しかなかった。その中でも、注目度の高い媒体を戦略的に選びました。

 ――テレビの収録に赤ちゃん連れで現れたアグネス・チャンさんが「甘えている」と批判を浴びていました。

 批判者の林真理子さんは聡明(そうめい)な方だし、中野翠さんも加わって、反対勢力が優勢でした。芸能界のマナー知らずのアグネスたたきというままで決着してはまずい。それに林さんも中野さんも当時子どもがいなかったから、「子持ち女」と「子なし女」の対立という構図を男メディアに作られるのが不愉快で、子なし女もいろいろだよということも見せたかった。

 ――「男たちが『子連れ出勤』せずにすんでいるのは、だれのおかげであろうか」と問いかけましたね。

 男の評論家には、「自分の愛する者を常に連れて歩きたいなら、俺はペットを連れて行く」とか暴論を吐く人もいた。アグネスさんは「歩く中華思想」とかひどいバッシングを受けて沈黙してしまったけれど、2014年、月刊誌で26年ぶりに彼女と対談する機会があった。子どもができたら会社を辞めるものだという曽野綾子さんのマタハラ発言などがあって、黙っていられなくなったということでしたね。

 ――「アグネス論争」という言葉が流行語に選ばれるほど、社会的なインパクトがありました。あのとき、上野さんの「ケンカ上手」が印象づけられた気がします。14年も、一方的な講演会中止を撤回、陳謝させた山梨市長との闘い方は見事でした。

 ケンカ上手は、なりたくてなってるわけじゃないんだけどね。あのときは、ありとあらゆる可能性をシミュレーションしました。私は激突型の闘いではなく、獲得できる目標を設定して勝ち癖をつけることが大事だと思ってる。

 ――「負けても正論を貫いた」ではダメだと。

 それじゃ自己満足のマスターベーションです。敗北が重なるとどうしても落ち込むからね。手の届かない大きな目標は設定しない。これは学生運動の経験が反面教師です・・・

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ケンカ上等、上野千鶴子 社会の常識変えるには
216円(税込)

家族や生い立ちについて一切答えなかった時期もあった。「フロイト的な因果物語を作りたがるじゃない? それが気持ち悪くて」。父に溺愛され、専業主婦だった母は反面教師だった。売られてもいないケンカを買って出た「アグネス論争」で有名に。「相手を論破する必要はない。どちらに理があるかを聴衆が判断し、それによって社会の常識も変わっていくんです」。激突型ではなく、聴衆を意識し、勝ち癖をつけてきた。フェミニズムと女性学の先駆者、上野千鶴子さんの生き方。[掲載]朝日新聞(2015年4月20日〜5月8日、13500字)

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