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教育・子育て
朝日新聞社

受験サプリの奇跡 「貧しくても東大」を実現したネット予備校アプリ

初出:2015年9月2日〜9月5日
WEB新書発売:2015年9月17日
朝日新聞

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 「大学に行きたい。でも貧乏だから予備校に通えないんです」。これは何かしなければ……そんな思いが、背中を押した――。リクルートマーケティングパートナーズのネット予備校サービス「受験サプリ」が受験生の支持を集めている。2011年10月、主に無料の過去問提供サービスとして始まり、12年10月には有料オンライン予備校として開塾。13年3月、赤字覚悟で「980円で見放題」に踏み切ってから有料契約が急増、いまや有料会員16万人、無料会員30万人に成長した。ノウハウもない30代の社員たちは、ネット予備校という新業態をどう開拓していったのか? お金がなくて受験を諦めていた生徒たちにどんな夢を与えているのか? そして、将来性は? 教育界に衝撃を与えつつある新興サービスの裏側を探る。

◇第1章 教育格差、動画が埋める
◇第2章 受験サプリの軌跡
◇第3章 授業を補完、高校が次々導入
◇第4章 苦手克服にビッグデータ活用


第1章 教育格差、動画が埋める

◎ネット予備校 月謝980円で急成長
 リクルートの松尾慎治(31)に彼女の一言が突き刺さった。「大学に行きたい。でも貧乏だから予備校に通えないんです」
 いまから5年前、稲穂が垂れる秋の新潟でのことである。「貧乏だから……」。高3女子の口からそんな言葉が飛び出すとは思いもよらなかった。
 当時リクルートの進学部門は少子化の影響で売上高が大幅減。同部門に配属されたばかりの松尾は同僚4人と立て直しを託され、どんなサービスが求められているのか高校生に聞こうと全国に散った。慶大に推薦入学した松尾はシビアな受験経験がない。だからこそ受験生の肉声を聞きたかった。
 広島で会った高3男子は部活をしつつ往復3時間かけて予備校に通っていた。「大学に行く以上、これぐらいのことはしないと」と明るく去る後ろ姿を見て、松尾は「すごいな」と妙に感じ入った。
 リクルートは翌2011年、全国800人の受験生を調査。「予備校に通いたいけれど通えない」層が約3割もあることがわかった。身近に予備校がないことと家計難が原因だ。「参考書一冊を買うのもためらう子がいました」と松尾。思わぬ「格差社会」の現実に直面したのだ。
 松尾たちのリーダー格の山口文洋(37)も、高校生を持つ母親が「生きていくのに精いっぱい。子どもを塾にやれなくて申し訳ない」と語るのを聞いた。予備校代は年間50万円はくだらない。「これは何かしなければ、と」。それを山口は「正義感」と言ったが、すぐこう言い直した。「これは誰もやっていない。自分が発見したアイデアに興奮して。正義感もありますが、それを超える好奇心があったのです」
 発見とは、インターネットで予備校講師の動画授業を提供する「受験サプリ」のアイデアだった。ユーチューブが普及し、スマホで動画を見る層が広がっていた。格安のネット予備校に需要があると見込んだのだ。
 だが上層部は山口たちの企画に冷淡だった。「ノウハウもないのに予備校なんてできるかよ」。経営会議でそう突き返された・・・

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