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朝日新聞社

奥ゆかしい妻の素顔は DV被害の夫16%

初出:2015年9月10日〜9月17日
WEB新書発売:2015年10月1日
朝日新聞

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 5年ぐらい前から暴力は始まった。毎月20万円の生活費を渡しても「稼ぎが悪い」とののしられ、料理をすれば「まずい」と言われた。仕事中に蹴られてケガをしたこともある。周りから「奥ゆかしい」と評される妻の素顔は誰にも言えなかった――。DV防止法が成立して15年。最近は男性が被害を訴える事例が増えてきた。内閣府の調査では、配偶者からの被害経験は女性が23・7%、男性は16・6%。男性は一人で抱え込む傾向があった。加害者教育・親の暴力を見た子どもへのケアなど、DVの現状と課題を考える。

◇第1章 妻の暴力、口閉ざす夫
◇第2章 「加害者の自覚」教育で
◇第3章 殴られる母、消えない恐怖/親のDV見せられた子、回復支援が急務


第1章 妻の暴力、口閉ざす夫

◎ののしられ、蹴られ、母親との絶縁迫られ…
 東京都内に住む自営業の男性(45)が、2年余り受け続けた妻からの暴力を明かしたのは3年前の夏だった。妻から逃れて自宅を飛び出すと、警察官が立っていた。
 「どうしました?」
 男性は重い口を開いた。
 前夜、酔って帰宅した妻の携帯電話にメールが着信した。差出人は知らない男の名前で、直前まで会っていたことがうかがえる内容だった。気配で目を覚ました妻が「携帯を返せ」と飛びかかってきた。服を引き裂かれながら近くの公園へ逃げ、一夜を明かして帰ると妻は再び逆上。その騒ぎを聞いた近所の人が110番通報をしたのだった。
 1歳上の妻とは2008年に結婚した。精神的に不安定で、目の前で手首を切られたこともある。「自分が支えなければ」と結婚に踏み切ったが、10年ごろから暴力が始まった。毎月20万円の生活費を渡しても「稼ぎが悪い」とののしられ、料理をすれば「まずい」と言われ、トイレ掃除をしても「汚い」と責められた。自宅で仕事中に蹴られてけがをし、完成間際の作品を壊された。
 抜け毛が増え、吃音(きつおん)にも悩んだ。周りから「奥ゆかしい」と評される妻の素顔は誰にも言えなかった。だが、警察官に明かしたその日のうちに別居。2年越しの裁判で14年春に離婚が成立した。役立ったのは、逃れた公園で撮影した浮気の証拠となるメールと警察官が聴取した記録だった。「慰謝料は請求できたが、一刻も早く離婚したくて諦めた」。あの夏、警察官に会わなければ、孤立したままだったかもしれない・・・

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