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文化・芸能
朝日新聞社

酒場でぐびり、吉田類の漂泊人生 全部逆風それでいい

初出:2015年9月5日、9月12日、9月19日
WEB新書発売:2015年10月8日
朝日新聞

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 テレビ番組「吉田類の酒場放浪記」。全国の酒場を訪れて酒を飲む。それだけのことだが、世代を問わず親しまれている。高知の山奥で育ったわんぱく少年は、中学生になるとき、母と関西に出た。そこから漂泊の人生。定職や家庭よりも自由を取った。30代後半は登山にあけくれ、北アルプスを修験者のように走った。40代は愛猫をザックの上にのせて、山へ。「全部逆風。それはそれでいい」。やりたいことをやってきた人生を語る。

◇第1章 酒は友だち、酒場は学校
◇第2章 桃源郷に抱かれた日々
◇第3章 不器用に、ばか正直に


第1章 酒は友だち、酒場は学校

 川崎市の多摩川べり。吉田類が土手に姿を見せた瞬間、河川敷で遊ぶ女の子が、茶店に座る母親に叫んだ。
 「ママー、ヨシダルイが来たーっ!」
 ええっと驚いた母親が、読んでいた文庫本を下に置く。河川敷をそちらに向かう吉田に笑顔を向けた。
 「ファンですーっ」。手品のようにその場が和む。にこにこと吉田が近づき、「写真一緒に撮りましょうか」。茶店の軒先で母子と並んでパチリ。
 茶店の名は「たぬきや」。昭和10年に開店し、いまも営業を続けている。
 店の外に葭簀(よしず)屋根のベンチ席。そこに腰掛けた吉田が遠くを見る。「外で飲むのが好きなんですよ」
 ホッピー割りを頼み、ぐびり。川を見やって、「昔は中州があってね、そこに菜の花がばあっと咲いたんですよ。それを見ながら俳句を詠んだりしてね」。
 太陽は中天にある。ゆらめく川面を見ながらうまそうにまたぐびり。


 「酒はいい友だちです。酒場? 場所にもよりますけど、コミュニケーションを学ぶ学校かな。宮尾登美子さんがそう書いてたんだけど、僕もそう思う」
 吉田を人気者にしたのはBS―TBSの番組「吉田類の酒場放浪記」だ。全国の酒場を吉田が訪れて酒を飲む。いわばそれだけのことだが、世代を問わず親しまれている。一瞬で場を和ませる吉田の個性が、酒場を茶の間に近づけた。
 日々、超多忙。テレビの収録が週2回以上あり、講演会が月に数回。連載も多く、「中央公論」では2015年10月号から長編エッセーに挑戦する。旅から旅の毎日なので、いろんな場所で原稿を書く。「空港のラウンジとか新幹線。もちろんホテルでも。朝は4時台には目が覚めるんですよ。で、5時前から原稿を書いて」
 「酒場放浪記」に出るときはハンチング帽をかぶる。
 「自分の主張なんですよ、全部。ハンチングもそうだし、俳句にしても、飲み方もそう。生き様の自己表現なんですね。僕はこんな生き方だよ、と」
 「酒場放浪記」という名も吉田自身がつけ、題字も自分で選んだ。酒場という名にも思いを込めた。
 「居酒屋じゃなくて酒場。だから立ち飲み屋もあるし、パブもある」
 吉田にはヨーロッパの酒場を飲み歩いた時代がある・・・

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