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教育・子育て
朝日新聞社

牛と暮らす高校生たち リアル「銀の匙」の日々

初出:2015年9月17日〜9月20日
WEB新書発売:2015年10月8日
朝日新聞

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 大ヒット漫画「銀の匙」のモデルになった北海道・帯広農業高校のリアルな日々とは――。酪農科学科の1年生40人は全員が学校の寮で暮らす。実習の日は午前5時半に起床。他学科の生徒からは「(牛のにおいが)臭い」と言われるが、「癒やされて落ち着く」と気にしない。ホルスタイン牛の共進会出場、ヒトデを使ったハエ駆除研究…牛と暮らす日々は刺激的だ。TPP・後継者不足など厳しい環境の中、酪農を学ぶ子どもたちの姿を追った。

◇第1章 牛と一緒の晴れ舞台
◇第2章 においも「癒やし」、発見の毎日
◇第3章 ハエの駆除考え、芽生えた目標
◇第4章 外国産に負けない、3代目の決意


第1章 牛と一緒の晴れ舞台

 201番――。
 2015年8月下旬、酪農が盛んな北海道十勝地方で開かれた「十勝総合畜産共進会」の乳用牛の部。帯広農業高校(北海道帯広市)のメスのホルスタイン牛「ゴマ」が、先頭を切って入場してきた。
 牛を引くのは、酪農科学科2年の長田剛彦さん(16)。競馬のパドックのように場内をゆっくりと回り、輪の中心にいる審査員にアピールする。
 共進会では、骨格や全体のバランスなどが評価される。1人の審査員が優劣を決めるため、審査員の個性が出ることもあるという。ある酪農家は「例えれば、(アイドルの)AKB48の総選挙でだれを1位にするのかを決めるようなもの」。牛の立ち姿など、牛をいかに美しく見せられるかは、引き手の腕にもかかっている。


 15年は例年以上に緊張感がみなぎっていた。秋に10年ぶりの全国大会が開催され、その予選を兼ねていたからだ。長田さんは牛の背筋を伸ばそうと、何度もゴマのあごの皮を引っ張った。だが審査員が近付くと、ゴマは避けるようにして暴れた。シャツの背中は、汗でびっしょり。「自分もゴマも、大きな共進会は初めて。緊張しました」
 ゴマを出品したのは、帯農ホルスタインクラブの生徒たち。酪農科学科を中心に、17人がホルスタインの世話をし、調教している。今回は生後の月齢で区分けされた4部門に計5頭を出品。そのうちの1頭がゴマだ。
 ゴマは15年11月で1歳。15年春、今回の共進会をめざして調教を始めた。長田さんら4人がゴマの担当だ。白黒の模様がごまのようだからゴマと名付けた。
     *
 長田さんが引き手を任されたのは本番1週間前だった。「ゴマを引いてほしい」。同じ酪農科学科の藤木志歩さん(17)から頼まれた。藤木さんはゴマ担当4人の中で唯一の3年生。突然の申し出に、驚いた。
 藤木さんは長野県栄村出身。家の近所に、家族ぐるみで付き合う酪農家が住んでいた。搾りたての牛乳をもらえるのが楽しみで、小さいころからよく手伝った。初めて間近で見た牛は「でかくて、目がかわいい」。酪農を学ぼうと志し、その酪農家が札幌市へ引っ越した縁で帯農を受験した・・・

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