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政治・国際
朝日新聞社

日系米国人の戦後70年 元敵国の民として生きるということ

初出:2015年9月9日〜10月2日
WEB新書発売:2015年10月15日
朝日新聞

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 ホノルルから来た教師のエリック・クスノキがホワイトハウスに見学に行くと、別室で出迎えたのは、バラク・オバマ大統領だった。日系人が社会に溶け込むハワイ。しかし、そこには強制収容を始めとした、筆舌に尽くしがたい苦難の歴史も刻まれている――。「地獄谷」と呼ばれたオアフ島の強制収容所、アーカンソー州、カリフォルニア州の「移住センター」、元日系人部隊が集うクラブハウスなどを訪ねながら、歴史の記憶を掘り起こすルポ。【登場人物】ジョージ・タケイ、ジェイク・シマブクロ、グラント・ウジフサ、カズオ・マスダ、ロナルド・レーガン、マイク・マサオカ、ノーマン・ミネタ、アイリーン・ヒラノ、マイク・ホンダ、ダニエル・イノウエなど(敬称略)。

◇第1章 オバマの恩師
◇第2章 ハワイ社会とカヌー
◇第3章 再発見された収容所
◇第4章 新天地での差別
◇第5章 開戦と強制収容
◇第6章 問われた忠誠
◇第7章 沈黙から継承へ
◇第8章 当たって砕けろ
◇第9章 二つの敵
◇第10章 人間秘密兵器
◇第11章 レーガンの言葉
◇第12章 補償の実現
◇第13章 テロの衝撃
◇第14章 声を上げる勇気
◇第15章 「日本」を受け継ぐ


第1章 オバマの恩師

 その日、ホノルルから来た教師のエリック・クスノキ(66)は、ポロシャツに半ズボン、スニーカーという格好だった。数年前のことだ。ごく普通の観光客としてホワイトハウスを見学する予定だったのだから、無理もない。
 保安検査を受けると、なぜか自分たちだけ奥の部屋に連れて行かれた。15秒後、現れたのは米大統領バラク・オバマその人だった。一緒にいた妻と娘は泣き出した。
 「クス先生、お元気でしたか。故郷のみんなは、どうしてますか」
 「ミスター・プレジデント(大統領閣下)」。とっさに答えながら、クスノキは理解した。そうか、バリーは今も、ハワイを自分のふるさとだと考えているんだな。


 日系3世の米国人であるクスノキが初めてオバマと会ったのは、40年前の9月だった。ハワイの名門私立校プナホウの教師になって1年、珍しい名の14歳をホームルームの担任として受け持った。日系人が多い土地柄だから、最初は「オバマ」を「オハマ」の間違いではないかと思っていた。
 顔を合わせてみると、父はケニア生まれ、母は白人だという。出席を取る際、名のバラクをうまく発音できずにいたら、「バリーと呼んで下さい」と彼は言った。
 自分だって姓を名乗ると、ロシア出身のクスノスキーさんですか、などと間違われることがある。他の人と違っていても何の問題もない、と彼に話した。
 バリーは、相手が何かを言うのを待ってから話す少年だった。出しゃばらず、決して攻撃的には振る舞わない。目の前の大統領は年を重ねてはいたが、同じ人だった。
 日系人である自分が、彼にどんな影響を与えたのか、はっきりとは分からない。しかし、もし彼が別の土地で育っていたら、今のような大統領には決してならなかっただろう。そうクスノキは確信している・・・

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