【お知らせ】WEB新書は閉店しました。

文化・芸能
朝日新聞社

ずーっと、関西 東京には住まない桂文珍

初出:2015年10月5日〜10月16日
WEB新書発売:2015年10月29日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 落語家の桂文珍さんは、大学生の時、卒業論文を書いたら突き返された。しかし、就職のことを聞かれ、すでに落語を始めていることを告げると、「ほんならこれでええわ」。文珍さんは関西にしか住んだことがない。「おもろいおっちゃんやおばちゃんがいっぱいいて、ネタのヒントもたくさんある」。東京は「ビジネスの場所としてはええねんけど……」。そんな文珍さんに、生まれ育ちや師匠との出会いと別れなどを語ってもらった。

◇第1章 進歩していない人間、おもろい
◇第2章 ラジオのお笑い、遠い世界だった
◇第3章 我流、どこの大学でもウケた
◇第4章 いざ入門、ドラマのような説得劇
◇第5章 テレビ出演、人気と芸の差に焦り
◇第6章 大学で教えてみたら、ごっつい新鮮
◇第7章 自宅で阪神大震災、落語が救い
◇第8章 連続独演会 師匠と父との別れ越え
◇第9章 お客さんに磨かれ、正念場これから


第1章 進歩していない人間、おもろい


 ――全国的に活躍してきましたが、東京に住んだことは一度もありませんか。

 ず〜っと、関西ですわ。東京でもたくさん仕事をさせて頂きましたけれど。
 上方落語が好きで落語家になったから、関西に軸足を置いておきたい。おもろいおっちゃんやおばちゃんがいっぱいいて、ネタのヒントもたくさんある。東京はビジネスの場所としてはええねんけど、発想を生むにはちょっと離れたところにいる方がいいと思うね。渦中におるとわからんようになることがある。距離感がとても大事なんです。
 海外にも出かけるし、生まれ育った兵庫県篠山市や「まれ」(NHKの連続テレビ小説)で話題になった能登半島の石川県輪島市にも以前からよう行っているんですよ。

 ――得るものがある?

 輪島は自然豊かなところですけど、飛行機なら1時間ほどで東京に行ける。地元の人と話していたらね、「この間、東京に行ってきた。人が多いなあ。人だけ見て帰ってきた」。面白いことを言うなあと思ってね。生の声を聞くのはごっつい大事。そこから新しいネタも生まれます。

 ――47都道府県を独演会で回り続けていますね。

 昔は「どさ回り」なんて言い方をしていましたけど、そういう感覚はもう古いんです。その土地土地の人たちがちゃんと情報を持っている時代ですから。バーチャルな世界を描く僕の落語は、地方の方が先にウケ始めた。びっくりしましたけど、IT系のネタの食いつきがとてもいいんです。高齢の方もよく使われているからでしょう。

 ――高座のうえで、どんなことを感じていますか。

 経済状況が元気な方が笑いにも勢いが出る。みなさんの反応から、敏感に感じますよ。東日本大震災の後は大変でした。1年目ぐらいに東北を回っていると、積極的に前のめりに笑いはる。心のどこかで傷ついてはって、早く笑いで癒やしたいという気持ちがあったんでしょう。それがだんだんと、普通に戻っていくのも感じてきました。

 ――時代を投影させるネタを作っていますね。

 テクノロジーはどんどん進む。せやけど、人間はそれほど進歩していない。そこ、ですわ。面白いというか、興味深い。事件でも、インターネットに自分の犯行をアップする人が出てくる。警察が、その裏付けを取る作業をしないといけなくなる。なんか、ものすごくややこしいなあ。

 ――自分の感じる面白さを表現できる仕事です。

 東京五輪のエンブレムの撤回で話題になったデザイナーの髪形が私に似てるって大阪で言ったら、ごっついウケてね。「私もオリジナルではありません。私のもとはビリケンさんです」。ハハッ。本当はね、ベッカムみたいにしたかったんですよ・・・

このページのトップに戻る