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世相・風俗
朝日新聞社

新宿タイガーを知ってますか ラブ&ピースを届ける名物新聞配達人

初出:2015年3月15日〜3月21日
WEB新書発売:2015年11月5日
朝日新聞

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 早朝の新宿駅東口、タイガーマスクのお面をつけ、山のような飾りをぶら下げた自転車が、新聞を配っていた。その正体は、朝日新聞新宿東ステーションの配達員(67)。人は彼を「新宿タイガー」と呼ぶ。配達歴40年の超ベテランは、変わり続ける新宿をどう駆け抜けてきたのか? 新宿高野、紀伊国屋書店、新宿中村屋、ゴールデン街……どんなものでも貪欲に受け入れる街、新宿の雑多な魅力を、新宿タイガーの目から眺めたルポ。

◇第1章 新宿、この生き方
◇第2章 タイガー誕生の稲荷鬼王神社
◇第3章 3代続く自転車店
◇第4章 新宿高野
◇第5章 紀伊国屋書店新宿本店
◇第6章 新宿中村屋
◇第7章 ゴールデン街


第1章 新宿、この生き方

 新聞を積んだ自転車が走り抜ける。
 新宿駅東口、午前5時。一夜を明かしたのだろうか、スーツ姿の男性たちが駅へと吸い込まれるように入っていく。ビルが立ち並ぶ大通りや飲食店が連なる路地で、ごみ収集車がせわしなく動いていた。
 配達するのは、タイガーマスクのお面をつけた朝日新聞新宿東ステーションの原田吉郎さん(67)。人は「新宿タイガー」と呼ぶ。


 長野県出身。大東文化大に進んだが、2年でやめた。アルバイト先だった練馬区の新聞販売所に就職した。今の店に移ってきたのが1975年。以来40年、この街で配り続ける。
 何回目かの9月、歌舞伎町にある稲荷鬼王(いなりきおう)神社の祭りで、屋台で売っていたタイガーマスクのお面に目がいった。漫画のタイガーマスクも阪神タイガースもファンというわけではない。ヒーローへの変身願望があった。「この世にラブ&ピースを届けたくてね」
 30枚、あるだけ買った。お面だけでは飽き足らなくなった。アフロのカツラをかぶり、小道具を増やし……。いつの間にか「装備」は約10キロに膨れあがった。ドロップハンドルの愛車にまたがり、配達に出る。
 荷が重い朝刊を配るときはお面を後頭部に。装備も心なしか軽い。夕刊と集金のときはお面で顔を覆う。
 はじめは酔っぱらいにからまれた。今では女子高生にスマホのカメラを向けられる。


 ずっと東口から南口にかけての新宿3丁目と4丁目の一部で配ってきた。配達先は主に企業や飲食店だ。閉じたシャッターに手を差し入れ、隙間に新聞を差し込んでいく。
 警備員が24時間いるビルが増えた。警備員に朝刊を手渡す。タイガーは両手の親指を立てる。甲高い声。「いつもありがとねー」
 通勤する人たちが行き交う。大通りには配送トラックが止まり、運転手は荷下ろしに忙しい。
 午前8時半過ぎ。走った距離はおよそ10キロ。駅ビルの角にある交番で、若い警察官が表情を変えずに朝刊を受け取った。
 締めくくりはJR新宿駅事務室。タイガーがドアを開ける。10人近くの駅員が一斉に振り向き、笑顔で親指を立てた・・・

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