【お知らせ】WEB新書は閉店しました。

経済・雇用
朝日新聞社

高すぎた目標 現地で探るVW不正

初出:2015年10月23日〜10月25日
WEB新書発売:2015年11月5日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 自動車大手・独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車をめぐる不正が問題になっている。旧西独の経済成長を支えた名門企業が、なぜ不正に手を染めたのか。近年のVWは高い販売目標を掲げ、その「拡大路線」が業界で話題になっていた。「いま思えば目標が高すぎた」と語る関係者もいる。リコールの費用や制裁金など、不正の代償は決して軽くない。VWの現状を現地から報告する。

◇第1章 VW社内、目標必達の重圧
◇第2章 独経済の根幹、揺さぶる
◇第3章 「エコなディーゼル車」暗雲


第1章 VW社内、目標必達の重圧

◎強権首脳陣 掲げた「世界一」
 2015年10月21日午後、独ウォルフスブルク。報道カメラの放列が待つ工場内で、乗用車「ゴルフ」の生産ラインに沿って3人の男がゆっくりと歩いてきた。
 映画の一幕ではない。排ガス規制逃れに揺れる独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が開いた記者会見だ。男の1人は、引責辞任した前任者マルティン・ウィンターコルン氏から最高経営責任者(CEO)を引き継いだマティアス・ミュラー氏。「売り上げが急減したら早急に対策を取る」。報道陣の質問に淡々と答えていった。


 ディーゼル車に不正ソフトを載せ、試験のときだけ排ガス浄化装置を動かしていたことが米国で2015年9月に発覚した。その後、不正対象車は世界中で1100万台にのぼることがわかった。巨費を投じた大規模リコール(回収・無償修理)が必要だ。ミュラー氏は、すでに引き当て予定の対策費65億ユーロ(約8800億円)では足りなくなる可能性も会見で示唆した。
     *
 VWは、アドルフ・ヒトラーの「国民車構想」から誕生した。社名はまさにドイツ語で「国民車」を意味する。敗戦後は大衆車「ビートル」の生産を始め、1960年に民営化された。欧州のモータリゼーションの立役者になり、西ドイツの経済成長を支えた。
 紛れもない名門企業が、なぜ不正に手を染めたのか。究明は米法律事務所などの調査を待つ必要があるが、世界一をめざした急な「拡大路線」と無縁ではなさそうだ。
 「2018年に1千万台以上の世界販売を達成する」。ウィンターコルンCEO(当時)が10年先を見据えた計画を立てたのは07年末。不正ソフトをディーゼル車に積む直前だ。
 「いま思えば目標が高すぎた」。当時の監査役は打ち明ける。世界販売は600万台ほどで、ライバルの米ゼネラル・モーターズ(GM)、トヨタ自動車との差は150万台以上。「監査役会ではトヨタなどの利益や投資計画と比べ、追い越すための議論を繰り返した」。世界最大市場の北米で弱く、その攻略を急ぐあまり不正をしたとみている。
 元々、ピエヒとポルシェという二つのオーナー家の影響力が強く、少数の首脳陣が決めた目標は「何が何でも達成させる雰囲気があった」と元監査役は言う。内情を知る関係者は「軍隊のように厳しかった」と口をそろえる・・・

このページのトップに戻る