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教育・子育て
朝日新聞社

虐待された子どもたち 「愛される方法を教えてほしい」

初出:2015年10月25日〜11月6日
WEB新書発売:2015年11月19日
朝日新聞

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 愛知県立「あいち小児保健医療総合センター」心療科病棟には、虐待の後遺症に苦しむ子どもたちが入院している。「愛される方法を教えてほしい」。病棟の廊下の壁にもたれつぶやく女子中学生。父親から虐待を受け、乳幼児期に築かれる親子間の情緒的な絆「愛着」がゆがんでしまっているという。被虐待児は「保護された時がゼロ歳児」ともいわれ、心療科では赤ちゃんを見守るように甘えや怒りを受け止めた――。ほめられても「うそつけ」と素直には受け止められない男子中学生。「あなたはちっともわるくない」。そんな絵本を読んでもらうと、表情が穏やかになった女子小学生。全国でも珍しいこの病棟に、記者が2年前から通い、心の傷と向き合う子どもたちの姿を追った。

◇第1章 理由なく殴られて
◇第2章 父が憎い、口にできた
◇第3章 愛され方、教えてほしい
◇第4章 人との距離、守れない
◇第5章 少しずつ思いを言葉に
◇第6章 「イヤ」と言えるように
◇第7章 ママに会いたいけれど
◇第8章 3色のカード、意味は
◇第9章 背中トントン、おやすみ
◇第10章 答える言葉、三つだけ
◇第11章 楽しみな時間できた
◇第12章 曇りない笑顔で退院


第1章 理由なく殴られて

 愛知県大府市。あいち小児保健医療総合センターは、小高い丘の上に立つ。心療科病棟は3階。ガラス戸を開けると、壁にはキツネやチョウチョ、菜の花などの絵がパステル調で描かれている。中央の吹き抜けからは暖かい日差しが差し込んだ。
 大部屋の引き戸を開け、中学生の男の子が出てきた。
 「勉強させられてる」
 不満げな様子で言うと、「殺す」とつぶやきながら部屋に戻った。鋭い目つきで人を寄せ付けない雰囲気を漂わせた。
 小さい頃、母親の恋人から虐待を受け、自身も家庭や学校で暴力を振るうようになった。入退院を繰り返し、暴力は少しずつ減ってきたが、まだ、自分の感情を抑えきれない。
 数時間後、看護師に連れられ、泣きながら「ムーン」と呼ばれる10畳ほどの個室に入っていった。別名コントロールルーム。思い切り叫んだり、クッションをたたいたりできる部屋だ。
 部屋から怒鳴り声が響く。20分ほどすると少し落ち着いた様子で出てきて、付き添った看護師に「ありがとうございました」と小さく頭を下げた。


    *
 記者がスタッフステーションで医師の新井康祥(やすあき)さん(42)と話していると、小学校低学年の男の子がカウンターの向こう側から顔を出した。
 小さな声で「お話し中?」と男の子。新井さんが「大丈夫だよ。どうした? 寂しい?」と聞くと、「ううん」と首を振り、本棚に歩いていった。センターで、医師は白衣を着ない。新井さんも青と白のチェック柄のシャツ。小さな子と話していると、親子のようにも見える。
 この男の子も家庭で暴力を振るわれていた。新井さんは「入院したばかりなんです」と後ろ姿を心配そうに目で追いながら言った。病院の食事を残さず食べたかと思うと、無理していたのか、吐いてしまう・・・

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