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朝日新聞社

虐待連鎖を断てるか、ある家族の物語 ほめ方も叱り方も分からない

初出:2015年11月7日〜11月16日
WEB新書発売:2015年11月26日
朝日新聞

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 「子育てのイメージなんてないですよ。普通が分からない。親にほめられたこともないから、ほめ方も分からないし」。虐待されて育った母親。19歳で結婚したが、夫の暴力が原因で子ども3人を連れて離婚した。叱り方も分からず、気がつくと手が出た。長女と次男は学校で「大変な子たち」として知られていたが、教員たちはとことん遊び、ほめて、寄り添った。「ずっと味方してくれて、子どものことを見ていてくれた。ずっとね。それに気づいて『私、何やってるんだろう』って思ったの」。虐待の連鎖から抜け出そうと、病院や学校に支えられながら歩み出した家族を追った。

◇第1章 子育て、分からない
◇第2章 「つらいんだ」小さな叫び
◇第3章 とことん遊び、ほめた
◇第4章 初めて描いた家族の絵
◇第5章 虐待してた、気づいた
◇第6章 一緒に乗り越えていく
◇第7章 虐待、専門的ケアが急務


第1章 子育て、分からない

 「お母さん、一緒にやらんの?」
 マンションの居間で、小学校高学年の女の子が「シルバニアファミリー」のウサギの人形を手に、母親を振り返った。
 近くで見ていたEさんはそう言われると一瞬、言葉に詰まった。子どもの頃、ままごとで遊んだ経験がない。だから「出来ないって。見てるから」と答えるしかなかった。


 東海地方に住むEさんは30代後半。
 子育てのイメージなんて、何もないですよ。普通が分からない。親にほめられたこともないから、ほめ方も分からないし……。
 両親は幼いころに離婚し、父親に引き取られた。父は怒ると暴力を振るった。「手が痛くなる」と、靴の裏でほおを殴られたことも。夕食はいつもファストフードや弁当だった。
 父は「新しい女の人」を連れてきた。教師をしていたこの女性は「お母さんと呼びなさい」と言い、実母に会いに行くEさんをたたいた。小学生の頃から家出を繰り返し、野宿もした。寂しさから万引きもした。「ずっと何かを求めてた。逃げてたのかな」と振り返る。
 19歳で結婚し、20歳で長男を出産。夫は普段は優しいのに、ふとしたことでEさんや子どもに暴力を振るった。離婚を切り出すと、夫は小学生だった長男に「見とけ」と言ってから、殴り続けた。気を失うまで2時間ほど。殴られる母の姿を直立不動でじっと見ていた長男は、いま高校生。当時の記憶はないという。
 数年後に長女、その翌年に次男を出産。結婚して10年ほどして3人の子どもを連れて、離婚した。
 母子4人の生活になり、夫の暴力からは逃れた。でも、ごはんの食べ方もえんぴつの持ち方も教えた記憶がない。叱り方も分からず、気がつくと、手が出た。長男を殴り、鼻の骨を折ってしまったこともある。
 長女と次男が小学校低学年の時、児童相談所の職員が2人を連れていった。近隣住民が、虐待だと通報したようだった。1週間、離れて暮らした。
 「いないとずっと涙が出てくる。それぐらい、かわいいの」。でも、近くにいると、うっとうしかった。
 子どもが家にいる夏休みは、パチンコに入り浸った。「子どもから逃げて、放置すれば、怒らないでいられる」と考えた。
 教師には嫌な思い出しかなく、頼れなかった。自分を虐待した継母は教員だったし、大人になって再会した中学時代の担任は「あのときは助けてやれなくてごめん」と言った。苦しんでいたことに気づいていたのに、何もしてくれなかったんだ、と思った。
 長女と次男は、小学校で大きな問題を起こすようになっていた・・・

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