経済・雇用
朝日新聞社

賠償と自由化の間 進むも戻るも地獄の東京電力

初出:朝日新聞2016年1月11日〜2月12日
WEB新書発売:2016年2月25日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 東日本大震災からほどなく、東電と政府の幹部が向かい合っていた。原発事故の免責を求める東電側。それを拒否する政府側。法的には、巨大な天災の場合は電力会社の責任を免除する規定もあるが、それでは世論の理解を得られない、と政府は判断した。一方で、東電の企業責任を明確にするために法的な整理を求める声もあった。しかし、それだと他に優先的に弁済される債務があり、震災の賠償資金などろくに残らない。東電はつぶれては困るが、企業として自由に行動されても困る――。そんな中で東電は電力の完全自由化を迎える。

◇第1章 東電が負う「責任と競争」
◇第2章 東電賠償「免責通じぬ」
◇第3章 矛盾抱える原発賠償
◇第4章 経営再建、原発頼み
◇第5章 崩れる独占、160社攻勢


第1章 東電が負う「責任と競争」

 原発事故後の東京電力にとって、それは「異色」の記者発表だった。
 2015年8月18日、東京・内幸町にある本店の会見室。大きなスクリーンを背に現れた社長の広瀬直己(62)は、ピンマイクを胸につけ、身ぶり手ぶりを交えて経営戦略を語り始めた。有名なIT企業などではやりのスタイルだ。
 東電は、16年4月の電力の小売り全面自由化に合わせ、燃料・火力発電、送配電、小売りの三つの事業会社を置く持ち株会社制に移行する。機能別に分けて他社と提携を結び、競争を勝ち抜くねらいだ。掲げたスローガンは「挑戦するエナジー。」。そのお披露目の場だった。


 広瀬は「福島の責任を全うします」と前置きした上で、こう説明した。
 「挑戦者のスピリッツを呼び起こそう、厳しい状況を乗り越えていこう。そうした思いを込め、新しいスタートを切ります」
 効果音も使いながら、華々しささえ感じさせる演出。だが、福島県の地元紙、福島民友新聞の記者の質問で雰囲気が変わる。
 「時に手を広げて歩き回りながらのプレゼン(テーション)を、社長、福島県でできますか」
 広瀬の表情はきつくなった。「東電はますますしっかりしないといけない。それが福島の責任を果たすことにもなる」。そう答えたが、同じように振る舞えるかには触れなかった。
 質問は、分社化などで東電が負うべき責任がないがしろにされるなら問題だ、そんな地元の思いを代弁していた。
 東電には、被災した住民に賠償し、事故を収束させて廃炉を完了する責任がある。除染の負担もある。そのためにも強い会社に生まれ変わる必要がある、とする東電。だが、その「両立」は簡単ではない。


官僚、仕掛けた「連判状」
 東電が原子力損害賠償支援機構の出資を受け、実質的に国有化されたのは12年7月。給料は減り、優秀な社員の退社が続いた。3カ月後の機構運営委員会で、広瀬が「MBA(経営学修士)を持つような人が辞める」と嘆いたほどだ・・・

購入する

この記事の続きは、WEB新書でお読みいただけます。

賠償と自由化の間 進むも戻るも地獄の東京電力
216円(税込)
  • 著者小森敦司、大月規義、川田俊男、松浦祐子、長崎潤一郎、米谷陽一、大宮司聡、井上亮
  • 出版社朝日新聞社
  • 出版媒体朝日新聞

東日本大震災からほどなく、東電と政府の幹部が向かい合っていた。原発事故の免責を求める東電側。それを拒否する政府側。法的には、巨大な天災の場合は電力会社の責任を免除する規定もあるが、それでは世論の理解を得られない、と政府は判断した。一方で、東電の企業責任を明確にするために法的な整理を求める声もあった。しかし、それだと他に優先的に弁済される債務があり、震災の賠償資金などろくに残らない。東電はつぶれては困るが、企業として自由に行動されても困る――。そんな中で東電は電力の完全自由化を迎える。[掲載]朝日新聞(2016年1月11日〜2月12日、15200字)

    スマートフォン、タブレットでも読めます。

    Facebookでのコメント

    このページのトップに戻る