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文化・芸能
朝日新聞社

欲望を余さず焼きつけろ 映画監督・園子温の仕事術

初出:2016年2月6日、2月13日、2月20日
WEB新書発売:2016年3月3日
朝日新聞

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 異端の映画監督・園子温(その・しおん)。その創作の原点は、厳格な父との相剋にあった。全裸で登校して周囲をパニックに陥れ、家の中では毎日口論。高校2年で家出して上京するが、そこで出会った「植木バサミの女」が、人生を変えることになる――。異色の表現者の破天荒な半生記。

◇第1章 家族は葛藤の温床だった
◇第2章 撮りたい映画が撮れない停滞
◇第3章 欲望を余さず焼きつけろ


第1章 家族は葛藤の温床だった

 築約90年の木造平屋の屋敷だと聞かされていた、園子温(54)の生家は、2015年秋に解体され、跡形もなかった。
 日本三大稲荷のひとつ、愛知県豊川市の豊川稲荷からほど近い約400坪もの敷地は、みごとに更地にされていた。
 ジャングルと揶揄(やゆ)されるほど生い茂って闇をつくり、蛇のねぐらがあるといわれた庭の雑木林も、痕跡はなにもない。
 「新宿スワン」を皮切りに、「ラブ&ピース」「リアル鬼ごっこ」「映画 みんな! エスパーだよ!」まで、15年、園が監督した作品は4本も公開された。
 常道にあえて背く、異端の表現者でありながら、もはや、カルトな映像作家という形容は当てはまらない売れっ子だ。
 フィルモグラフィーの原点は、21歳で法政大学に入ってから8ミリで撮り始めた個人映画だ。みずから主演もしている最初期の作品では、生家にカメラを持ちこんで、やりたい放題に回し、両親と妹ひとりの家族も出演させていた。
 親密な絆が、そうさせたのではない。
 「なにもかもが時代錯誤的だった」と回想する家族関係は、むしろ葛藤の温床だった。家族との共演は、そのやりきれなさを映像に昇華させようとしたのだ。
 園は一族の歴史を、こう語り起こす。
 「園家の男は代々、父親を反面教師にする宿命にあるのかも知れません」
 曽祖父は、紡績工場を営んで一代で財を築き、豊川でも指折りの名士だった。だが、園にいわせると「破天荒キャラ」の祖父が、園家を没落させてしまう。
 家業をかえりみず、先代の資産を食いつぶしながら、地元の演劇活動の復興にのめりこんでしまったのだ。
 08年に79歳で他界した父、音巳(おとみ)は、英米文学を研究する大学教員だった。祖父とは正反対の謹厳な男で、園は大人になってからも、真っ赤なTシャツを着ていただけで眉をひそめられ、長々と説教されたことがあるという。
 小学生のころから、口を開けば「勉強しろ」と小言ばかりの父親との確執が、園を突拍子もない行動へ駆り立てた。全裸で登校して教室中をパニックに陥れ、作文に「月経の血のように赤い月」と書いて教師の度肝を抜いた。揚げ句の果てには、通知表の通信欄に「性的異常がみられます」と記入される始末だった。
 「逸脱」と表現する反抗は、隣の豊橋市の県立高校に進んでから始まった・・・

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