教育・子育て
朝日新聞社

ひそむ貧困SOS 先生、気づいてくれてありがとう

初出:朝日新聞2016年2月23日〜2月26日
WEB新書発売:2016年3月17日
朝日新聞

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 関西のある中学校の女性教諭は毎朝、校門に立つ。生徒たちの表情、身なりに変わりはないか、すれ違う時はにおいを確かめる。「あいつと手をつなぐの、嫌や」。言われた少年は、髪に脂が浮き、制服のシャツはいつも首回りが黒ずんでいた。「お風呂、入れてる?」「風呂、壊れてるし」。学校でシャツを洗うことにし、男性教諭は友だち役を買って出た。それから2年。卒業した少年は言った。「一緒にいてくれて、ありがたかった」。外からは容易に見えない子どもの貧困。学校現場は子どもたちのSOSをどうキャッチし、どう立ち向かっているのか。先生や学校医の姿を追った。

◇第1章 なんか頭痛い…潜む生活苦
◇第2章 生徒のシャツ洗う、友だち役も
◇第3章 働き疲れた生徒、笑わせるんだ
◇第4章 つなぐ、埋もれたSOS


第1章 なんか頭痛い…潜む生活苦

校医、相談会でSOS察知
 2016年2月、中部地方のある中学校の保健室は、夜も窓から明かりが漏れていた。日中から続く健康相談会。校医を務める小児科の女性医師が定期的に開いている。
 この日、生徒10人ほどが相談に来た。寄せられる相談の多くは「不定愁訴(ふていしゅうそ)」。体調がすぐれないのに原因が見あたらない状態のことだ。

あたし、病気?
 居酒屋で働く少女(16)は中2の秋、相談会に来た。「頭が痛い。ときどきおねしょする。あたし、病気なの?」
 「大きな病気じゃないのよ。眠りが浅くて睡眠の質が悪いの」。落ち着かせながら、家庭環境を尋ねた。頭痛、尿失禁など思春期の不定愁訴に貧困がひそむ事例を、これまで何度も目にしてきた。
 母子家庭で姉と兄がいる。母親はパートで働いたが、長続きしない。終日パチンコ店にこもる。精神的に不安定で、掃除も食事の支度もしない。
 子どもたちは母親が持ち帰る弁当1個を分け合って命をつないだ。空腹に耐えられず、兄が隣の玄関先に置かれた生協の宅配物をくすねて来ることもあった。
 少女は中学に入学したが、休みがちだった。養護教諭は給食を食べさせようと保健室登校させた。同じころ、兄の家庭内暴力が激しくなった。少女はささいなことで殴られ、顔を紫色に腫らしていた。
 ひとり、叔母の家に避難した。だがそこも貧しく、小学生のいとこと一つ布団で寝た。相談会に現れたのは、そのころだ。
 「あたしはいらない存在」「何もいいことない人生」。自己否定のことばを繰り返した・・・

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この記事の続きは、WEB新書でお読みいただけます。

ひそむ貧困SOS 先生、気づいてくれてありがとう
216円(税込)
  • 著者足立耕作、長野佑介、後藤泰良、石原孝、丑田滋、宮崎亮
  • 出版社朝日新聞社
  • 出版媒体朝日新聞

関西のある中学校の女性教諭は毎朝、校門に立つ。生徒たちの表情、身なりに変わりはないか、すれ違う時はにおいを確かめる。「あいつと手をつなぐの、嫌や」。言われた少年は、髪に脂が浮き、制服のシャツはいつも首回りが黒ずんでいた。「お風呂、入れてる?」「風呂、壊れてるし」。学校でシャツを洗うことにし、男性教諭は友だち役を買って出た。それから2年。卒業した少年は言った。「一緒にいてくれて、ありがたかった」。外からは容易に見えない子どもの貧困。学校現場は子どもたちのSOSをどうキャッチし、どう立ち向かっているのか。先生や学校医の姿を追った。[掲載]朝日新聞(2016年2月23日〜2月26日、6600字)

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