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朝日新聞社

夢は流されない 家族を失った震災被災者たちの5年間

初出:2016年3月5日〜3月11日
WEB新書発売:2016年3月24日
朝日新聞

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 「大川小学校が孤立しています」。あの日の激しい揺れの後、ラジオが伝えていた。妹のみずほさん(当時12)は帰って来ない。母の車にパンや毛布を積んで学校に向かった。途中、知り合いから、遺体が見つかったと告げられた。母と泣き崩れた――。被災地の人々は、大切な人を失った悲しみを胸に刻み、いのちと向きあい続けてきた。東日本大震災から5年。その歩みをたどった。

◇第1章 残したい、妹と大川小の思い出
◇第2章 父母が愛した楢葉で生きる
◇第3章 娘につながる地、手放せない
◇第4章 孫よ家族よ、ひまわりが支えた
◇第5章 すれ違う、故郷への思い
◇第6章 伝わる言葉、探し続ける
◇第7章 震える心、見守られてた 母失った17歳、支えられ復興へ決意


第1章 残したい、妹と大川小の思い出

 太平洋にそそぐ北上川の河口。ダンプカーが走り、道路工事の音が響く。その一角で、2階建ての校舎は壁が崩れ、コンクリートの柱が横たわったままだ。
 宮城県石巻市の旧大川小学校。佐藤そのみさん(19)はかつての母校に、大学のある埼玉県から毎月のように足を運ぶ。
 周囲から取り残されたような校舎に手をあわせ、静かに目を閉じる。


 「大川小学校が孤立しています」。あの日の激しい揺れの後、ラジオが伝えていた。妹のみずほさん(当時12)は帰って来ない。母の車にパンや毛布を積んで学校に向かった。途中、知り合いから、遺体が見つかったと告げられた。母と泣き崩れた。
 遺体安置所から連れて帰り、ひつぎの隣でギターを弾いた。みずほさんが好きだったバンド「BUMP OF CHICKEN」の曲を口ずさんだ。
 《君の願いはちゃんとかなうよ 楽しみにしておくといい》
 妹は英語の通訳になるのが夢だった。「願い、かなわないじゃんねえ」。小学校を卒業するはずだった日、ひつぎは灰になった。


 妹を失った大川小学校。でも、自然と足が向いた。一緒に通った校舎の赤い屋根、空の青色、包み込む木々の緑色。そして子どもたちの声は黄色。土色だけになった一帯でも、ここではカラフルな風景を思い浮かべることができた。
 震災前から、ふるさとを映画に撮るのが夢だった。映画学科のある日大への進学をめざした。
 学校見学会で「被災地の映画を撮りたい」と伝え、エントリーシートに体験をつづった。競争率8倍の難関を突破した。
 入学してすぐ、先生は同級生を前に「佐藤は新聞に載っていた」と紹介した。妹を失いながら、夢を追う姿を取りあげられたことがあった。好奇と敬意がないまぜになった視線。「被災地の子」のイメージが広がるのを感じた。
 高校時代、得意だった友だちづくりに戸惑った。意識するほど、自分から壁をつくってしまった。
 同級生は専門家みたいに映画を語り、会話についていけない。ドキュメンタリーの課題で撮った映像は、ほとんど使えなかった。
 「私、震災がなかったら合格していない」
 講義とアルバイトの毎日に、夢に近づく手応えを感じられない。何をするために、ここにいるんだろう――。自分を見失った・・・

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