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朝日新聞社

Nシステムに写っていたもの 無期懲役判決の今市事件

初出:2016年4月9日〜4月20日
WEB新書発売:2016年5月12日
朝日新聞

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 栃木県今市市(現日光市)の小1女児が殺害された事件(今市事件)で逮捕・起訴された男に、宇都宮地裁は無期懲役の判決を言い渡した(被告側は控訴)。設置場所が公表されておらず、通常は裁判の証拠に使われない「Nシステム」(通行車両のナンバーを読み取る装置)の記録公開など、異例ずくめの裁判。取り調べの一部が録音・録画(可視化)されていないことも明らかになった。事件を改めて振り返る。

◇第1章 あの日、何があったのか 手を振る娘、二度と帰らず
◇第2章 県警「自信持って逮捕」 違和感覚えたアリバイ
◇第3章 検察「矛盾しない」何度も 状況証拠で苦しい立証
◇第4章 Nシステムの通行記録 異例の証拠、検察の切り札
◇第5章 被告の供述、なぜ変遷 可視化されぬ部分で攻防
◇第6章 解剖医の証言に反論 「遺体との矛盾」全否定
◇第7章 異例の延期、注目の判決 録音・録画の自白、決め手


第1章 あの日、何があったのか 手を振る娘、二度と帰らず

◎不審者 浮かんでは消える
 判決の2016年4月8日早朝、宇都宮市内は霧に包まれていた。この裁判を象徴するかのような夜明けだった。
 午後3時すぎ。宇都宮地裁の206号法廷は異様な緊張感に包まれていた。松原里美裁判長の声が静かに響く。
 「無期懲役に処する」
 証言台の前に立った勝又拓哉被告(33)は前を向いたまま、厳しい表情を浮かべた。傍聴席の最前列で被害女児の伯母は被告の背中をじっと見つめた。
 一つの「区切り」ではある。しかし、法廷で被告は否認を貫き、事件の全容は明らかにならなかった。10年4カ月前のあの日、何があったのか――。
   ■    ■
 2005年12月1日。栃木県今市市(現日光市)木和田島で、女児の一家は普段と変わらない朝を迎えた。女児は当時7歳で小学1年生。両親と姉妹、祖母との6人暮らしだった。
 その日も母は娘たちの朝食の準備に忙しかった。女児には好物の甘くない卵焼きを作った。朝食を食べ終え、女児と2年生の姉は学校へ。母はいつものように玄関の外で、2人の姿が見えなくなるまで見送った。「(娘は)何度も振り返っては手を振っていた。物陰に入って見えなくなった後も、戻ってきてまた手を振っていた。私もずっと手を振った。それが最後のお別れになってしまった」
 この日は木曜日。1年生は4時間目で授業が終わり、一緒に家路についた同級生3人と三差路で別れたのは午後2時半すぎ。三差路から自宅までの約1キロの間に、女児は姿を消した。


 夕方になっても帰宅しないのを心配した母は警察に届け出た。近隣住民と一緒に自宅や学校周辺を捜したが、手がかりはなかった。
 翌2日午後2時ごろ。直線距離で約65キロ離れた茨城県常陸大宮市の山林斜面で胸に刺し傷のある女の子の遺体が見つかった。警察から連絡を受けた女児の母はその日の夜に警察署で遺体を確認。娘だった・・・

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