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医療・健康
朝日新聞社

末期がん患者と呼ばないで 闘病記専門古書店主、星野史雄さん最期のことば

初出:2015年10月27日〜2016年5月7日
WEB新書発売:2016年5月19日
朝日新聞

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 無名の人の闘病記を全国から集めてインターネットで販売してきた、さいたま市の星野史雄さんが2016年4月19日、63歳で亡くなった。妻を乳がんで失ってから始めた収集は、自らが大腸がんになっても継続。蔵書は約3400点に上り、NPO法人が引き継ぐことになった――死去により中断となった朝日新聞医療サイト「アピタル」の連載「闘病記おたくの闘病記」を電子書籍にまとめました。

◇第1章 末期がん患者と呼ばないで
◇第2章 病院と斎場の間には
◇第3章 闘病記を求めて三千里
◇第4章 がん患者、一年目の危機
◇第5章 患者の外界との生命線
◇第6章 がん友と三冊の闘病記
◇第7章 ポートはもう、懲り懲りです
◇第8章 闘病記古書店の星野史雄さん逝く NPOが蔵書引き継ぐ(高橋美佐子)
◇第9章 パラメディカ店主、星野史雄さんが伝えたかったこと(上野創)
◇第10章 闘病記にはそれほど期待していないんです(医療ライター・高柳由香)
◇第11章 闘病記リストが果たした役割(健康情報棚プロジェクト代表・石井保志)


第1章 末期がん患者と呼ばないで

 「がん」の進行度(病期)を表す言葉に「ステージ」があることは、みなさんご存じだと思います。リンパ節や他臓器へ転移しているか否かで、五段階に分類されます。

 ある闘病記を読んでいたら、著者が「ステージは五段階」とだけ覚えていて、医師から「ステージ5」と告げられた時に、「まだ5ならば、末期の手前だな」と誤解したとありました。ステージは、ステージ0からステージ5までの五段階に分類されるので、5はどん詰まりになります。

 私が大腸がん(直腸がん)と診断されたのは2010年の8月、58歳になったばかりでした。トイレでイチゴジャムのような血便を目にして、近所のクリニックに駆け込みました。クリニックでは血液検査と内視鏡検査を行った結果、「うちでは手に負えない」と、その場で大きな病院への紹介状を書いていただきました。大腸がんであることは言うまでもありません。数日後に訪れた病院では、初診の日に入院日や種々の検査、手術の日まで決まってしまいました。後に「手術の日」だけ一日ずれるのですが、もう落ちこんでいる暇もありません。ただ、クリニックでの血液検査の結果、肝機能に少し異常があることが分かっていましたので嫌な予感がしていました。

 私は医療の専門家ではありませんが、闘病記専門のネット古書店を経営していましたので、闘病記を人一倍読んでいます。目を通さないと分類できませんから。集めた数は370種類の病名別に3400冊ほど。手元には大腸がんの闘病記だけで百冊以上あります。読んで分かるのは「大腸がんは肝臓と肺、更には腹膜などに転移する」ということ。一般的に肝臓に転移があると、予後が悪いということも知っていました。実際、「大腸がんが見つかり、肝臓に転移があって、手術が出来ないらしい」と言った知人は、がん専門病院で治療を受けたのですが、一年もたたずに亡くなりました。


 私自身は入院後に一週間かけて検査した結果、直腸がんで肝臓に二カ所転移があることが判明します。幸い肝臓の転移は手術出来る場所にあり、若い主治医に七時間かけて手術してもらうのですが、私は「余命一年くらいか!」と思っていました。

 一カ月の入院後、退院した翌日からXELOX(ゼロックス)療法とアバスチンという化学療法を開始します。当時女子大で非常勤講師をしていた私は、何とか講義を続けながら身辺整理を考えます。身辺整理といっても、私の最大の荷物は「本」。一部を新古書店に売却し、一部を廃棄しましたが、少しも減りません。減ったと思うと抗がん剤治療の合間に新古書店を巡り、また買ってしまうのです。

 ゼロックス療法を続けたものの、翌年2月には右肺にポチッと転移が見つかります。今度こそ「万事休すか」と、私は再度身辺整理を始めます。身辺整理といっても、(…以下、略。・・・

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