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朝日新聞社

群発自殺を防げ 積極介入で自死を防ぐ秋田県の戦い

2016年05月19日
(6800文字)
朝日新聞

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 「なんで、うちの集落だけなんだ」「ほっといてほしい。目立ちたくない」――。人口約3千人のこの地域は市内でも自死者が多く、特に計130世帯ある2つの集落では当時、自死が続いていた。危機感を抱いた市は2011年末、秋田大大学院の佐々木久長准教授に相談。「群発自殺の可能性がある」との助言を受け、市の事業として集落へ介入することを決めていた……。15年ほど前から秋田県内では、民間、行政、大学が連携して自殺対策を展開してきた。取り組みは地域にどのくらい浸透してきたのか。対策の現場となる地域の模索を追った。

◇第1章 自死多発の集落の介入に効果/「触れられたくない」思い、意識変わった
◇第2章 心の病 普通の人が声かけ/サポーター育成、県内25市町村に浸透
◇第3章 自死予防、浸透なお途上/減少から反転、関係者の裾野拡大課題
◇第4章 人と人の距離、自死と関係は/「絆の強さ」か「緩やかさ」か・・・進む研究
◇第5章 一人暮らしの自死、少数派?/「同居人あり」は7割、満足度に差


第1章 自死多発の集落の介入に効果/「触れられたくない」思い、意識変わった

 予想外の反応に、思わず言葉を失った。
 「なんで、うちの集落だけなんだ」「ほっといてほしい。目立ちたくない」
 2012年1月、秋田県湯沢市の保健師佐藤久美子さん(53)は、ある地域の会館に集まった町内会長や民生委員らから激しい言葉を浴びせられた。市内でも特に自死(自殺)者が多かった隣接2集落の住民向けの啓発講座へ協力を呼びかけた座談会でのことだ。会場は重い空気に包まれた。


 人口約3千人のこの地域は市内でも自死者が多く、特に計130世帯ある両集落では当時、自死が続いていた。危機感を抱いた市は11年末、秋田大大学院の佐々木久長准教授に相談。「群発自殺の可能性がある」との助言を受け、市の事業として集落へ介入することを決めていた。
 佐藤さんは振り返る。「私たちが問題視した自死は、地域にとっては触れられたくない話題だった。その背景には、自死への偏見や蔑視があると感じた」
 一部の住民は「自殺するのは精神的に弱いから」「自殺も一つの解決方法だ」と発言するなど、自死を地域ではなく、個人の問題と捉えていた。佐藤さんは思った。「これは湯沢市の縮図。このままでは、自死は減らせない」
 市は改めて座談会を開き、事業への理解を取り付けた。全世帯へチラシを配り、住民向けの啓発講座を2カ月で計3回、その後も年1回開いた。多い時で25人が参加し、困っている人への接し方や、自死者はどんな悩みを抱えていたのかなど、ひざをつき合わせて議論した。保健師も地域の45カ所で、自死やうつ病について講話して回った。
 住民の意識は、講座を経て、確実に変わったようだ。民生委員の菅野礼子さん(54)は「自死には触れちゃいけないと思っていたけど、少しずつ地域で話せるようになった」。もともと両集落では高齢者への声かけやサロン活動があったが、担当の保健師も「前よりも、心配な人がいるという相談を受けることが増えた」と話す。
 講座後、2集落から自死者は出ていない。佐藤さんは「住民と話し合い、理解を得た上で、連携して取り組む。自殺対策は一つの地域づくりだと学んだ。
 地域への的確な介入が、自死者を減らす効果があることは、研究でも分かってきた。
 秋田大は01〜05年度、藤里町と旧5町(合川、中仙、東由利、大森、千畑)をモデル地区として、うつ病や自死についての啓発や、相談体制の充実、高齢者の話し相手となる住民ボランティアの育成など、集中的に対策を展開した。
 その結果、98〜00年に年平均28人だった6町の自死者は、実施後の04年には15人とほぼ半減した・・・

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群発自殺を防げ 積極介入で自死を防ぐ秋田県の戦い
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「なんで、うちの集落だけなんだ」「ほっといてほしい。目立ちたくない」――。人口約3千人のこの地域は市内でも自死者が多く、特に計130世帯ある2つの集落では当時、自死が続いていた。危機感を抱いた市は2011年末、秋田大大学院の佐々木久長准教授に相談。「群発自殺の可能性がある」との助言を受け、市の事業として集落へ介入することを決めていた……。15年ほど前から秋田県内では、民間、行政、大学が連携して自殺対策を展開してきた。取り組みは地域にどのくらい浸透してきたのか。対策の現場となる地域の模索を追った。 [掲載]朝日新聞(2016年4月21日〜4月27日、6800字)

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