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朝日新聞社

ヒロシマ「どろどろの人」 児童書、あえて悲惨さ隠さずに

初出:2016年4月29日〜5月2日
WEB新書発売:2016年5月19日
朝日新聞

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 「ズッコケ三人組」シリーズで知られる那須正幹さん。3歳の時、爆心地から3キロの実家で被爆した。構想6年、絵本「絵で読む広島の原爆」では、竜巻のような炎が被爆者を巻き上げる様子も表現した。「悲惨なものを子どもに見せないという風潮があるが、私はあえて見せる。強烈な体験に『出会う本』であってほしい」。「広島の姉妹」を書いた山本真理子さんも、瀕死状態の友を「どろどろの人」など悲惨さを隠さず表現した。「『戦争は怖い』と知ってもらいたいので。それでも実際の体験に比べたら3割引きぐらいの表現なんです」。広島で被爆した作家らが手がけた児童文学作品。体験はどのように伝えられてきたのか、作家たちに思いを聞いた。
 
◇第1章 「絵で読む広島の原爆」/那須正幹さん
◇第2章 「八月の少女たち ヒロシマ・1945」/無念、14歳の視点で
◇第3章 「広島の姉妹」/3部作、私の生き様
◇第4章 「光のうつしえ」/未来へ、2世も継ぐ


第1章 「絵で読む広島の原爆」/惨状、あえて見せる

那須正幹さん

 「ズッコケ三人組」シリーズなどで知られる那須正幹(まさもと)さん(73)=山口県防府市。1995年に出版された絵本「絵で読む広島の原爆」が原爆関連の代表作の一つだ。
 絵は、科学の絵本でコンビを組んでいた西村繁男さんが担当した。構想から6年。100人近い被爆者の証言を基に8月6日前後の広島を、きわめて精巧に再現した。広島の惨状を、制服を着た「少年」が空中から見下ろすという設定で、徹底的にリアリティーを求めている。
 核兵器の原理や原爆投下に至るまでの歴史的背景、終戦後の核をめぐる世界情勢を年表形式で紹介し、一冊読めば原爆がわかる内容に仕上がった。
 「ど素人なのに医学の本から何から調べた。よう書いたなあと思う。米国の公文書にも目を通して、原爆投下による戦争の早期終結は口実だったとも書いた」
 竜巻のような炎が被爆者を巻き上げる様子も表現した。「悲惨なものを子どもに見せないという風潮があるが、私はあえて見せる。強烈な体験に『出会う本』であってほしい」。それが持論だ。一方で「とにかく次の世代に伝えて欲しい。そうせんと絶えてしまう」と訴える。


 3歳の時、爆心地から約3キロの広島市庚午北町(現・西区)の自宅で被爆した。母の背に負われ、大きなけがはなく、被爆の記憶はあまり残っていない。
 「復興」とともに育ち、文学を目指した。20代後半の頃。「おこりじぞう」などの作品で知られる故・山口勇子たちを中心とした、広島児童文学研究会による児童文学同人誌「子どもの家」で活動していた姉・竹田まゆみさんから声をかけられた。三浦精子さんや山下夕美子さんら「原爆児童文学」の礎を築いた多くの作家たちが集っていた。
 那須さんは68年ごろから加わり、執筆を続けた。ただし原爆をテーマにすることはなかった。「当時の広島では『ピカの時にどこで何してた』というのがあいさつみたい。作品のテーマにはならないと思った」と振り返る。
 一方で「首なし地ぞうの宝」(72年)や「ズッコケ三人組」シリーズ(78〜2015年)のヒット作を生んだ。「被爆体験の継承なんて考えたこともなかったし、作家として自立することが優先で、志でものを書くほどではなかった・・・

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