【お知らせ】WEB新書は閉店しました。

文化・芸能
朝日新聞社

なごり雪の季節に夫は逝った シンガーソングライター、イルカの半生記

初出:2016年4月25日〜5月13日
WEB新書発売:2016年5月26日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 1986年の夏のことです。夫が急に「指がおかしい」と言い出し、左手の薬指のぴくぴくが止まらなくて、数日後には結婚指輪もはめていられなくなりました。難病の、パーキンソン病でした……なごり雪の季節に夫は59年の生涯を終えました――。東京生まれのシンガー・ソングライター、絵本作家。2004年から国際自然保護連合(IUCN)の親善大使。大ヒット曲「なごり雪」で知られ、2016年5月にプロデビュー45周年を迎えたイルカは、これまでどんな半生を送ってきたのか。じっくりと聞いたインタビュー集。

◇第1章 あらゆる命あるものへの愛を歌う
◇第2章 ジャズマンの父と音楽好きの母と
◇第3章 アリが親友、話しかけ遊んだ
◇第4章 切った髪、ビートルズ、世界広がる
◇第5章 ギターケースの列「イルカみたい」
◇第6章 フォーク界のジュリーがやって来た
◇第7章 本音で通す、リスナーの心つかんだ
◇第8章 大ヒット後「冬眠」、絆や命を考える
◇第9章 共に歩んだ夫、なごり雪の季節に逝く
◇第10章 自然を守る大切さ、歌で呼びかける
◇第11章 泣いて笑って寄り添って、生きる


第1章 あらゆる命あるものへの愛を歌う

 ――毎年春には「なごり雪」があちこちで流れますが、最近、この時期にコンサートをしていませんね。

 花粉症なんです(笑い)。ベストなコンディションでない時は、やっぱり歌うべきではない。お客様に申し訳ない。もう10年近く前に、花粉の飛び始めから大型連休の終わりまでは、やらないと決めました。それに声帯も寿命があるそうで、無理して歌うと、声帯の寿命を縮めることになるんです。プロですから気をつけなければ。「花粉休み」の時期は、絵本描きやレコーディングに励んでます。また、ここ5年くらいは、京都で帯と着物にかわいいデザインを描くのにも没頭していましてね。地染めも自分でやります。リフレッシュして、音楽に打ち込みます。

 ――戦後70年の2015年は、様々な活動に取り組まれましたね。

 国会周辺もそうでしたが、あらためて日本という国が「戦争」について考えた年だったと思う。いくつかの中学、高校の生徒たちから、平和に関するメッセージを学園祭に寄せて欲しいと依頼されました。自分なりに先人から話を聞き、いまだに世界でやまない悲劇について学ぼうとしていることに胸が熱くなった。15年8月6日午前8時15分にはね、広島にいました。慰霊式が行われたとき、原爆ドームの前は、今も変わらぬ元安川が静かに流れていた。水を求めてたくさんの人々が亡くなられた場所です。平和を祈る鐘が響くと、静寂が広がって。70年前の朝もきっとこんなふうな静かな日常があって、皆が通学し、仕事をしていたのだなあ、と。そのあたり前の日常が一瞬にして全て奪われてしまった。
 デビュー当時から一貫してあらゆる命あるものへの愛を歌ってきました。あらためてそれを続けることの意義をかみしめています。創立90周年の愛知県豊橋市の桜丘高校には、広島での思いをつづりました。神奈川県川崎市の法政大学第二中学に贈ったメッセージは、こうです。
 「戦争」と今の自分の暮らし。かけ離れた物と思っていないかな? 一番近くにいる人の気持ちがいつも君には見えますか? 相手を思いやれなくなった時、心が戦争へと向かっている。憎しみはすぐに大きく膨らんで君の手には届かなくなるから……。それを戦場と言いませんか? 君たちがいつも「平和」な愛に包まれていますように。

 ――16年5月でプロデビュー45周年ですね。

 3、4年前に手にしびれを覚えましてね。長年、マイクを内蔵したアコースティックギターを肩からさげて演奏してきたので、頸椎(けいつい)を痛めていました。だから今はギターをスタンドに置いたまま弾いています。これまでに作った作品は数百曲ありますが、3年前から昔のLPレコードを、CDで復刻するアーカイブシリーズも手がけていて、16年も3枚を出す予定です。私にとっても大切な節目の時期と、とらえています・・・

このページのトップに戻る