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朝日新聞社

サリン被害、視界は針の穴 今も地下鉄は乗れません

初出:2016年6月14日〜6月17日
WEB新書発売:2016年6月30日
朝日新聞

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 中目黒駅から二つ目の広尾駅あたりから突然、体調が悪くなった。体がだるく、呼吸が速く、心臓もドキドキした。さらに二つ先の神谷町駅に着く直前、トンネル内で電車が一時停止した。先頭車両に目をやると、お年寄りが床にずり落ちていた。入院したその日、視界は真っ暗闇の中で針の穴程度。サリンで瞳孔が縮小する「縮瞳」が起きたためだった。その後遺症に21年経った今も悩まされている。地下鉄サリン事件で被害にあった男性が自らの体験を語ります。

◇第1章 真っ暗闇、視界は「針の穴」
◇第2章 地下鉄・人混み…恐怖感
◇第3章 「暗さが増してきた」
◇第4章 情報編 続く症状、長期的支援を


第1章 真っ暗闇、視界は「針の穴」

◎瞳孔が縮小 見えにくさ21年続く
 あれから地下鉄には一度も乗っていない。思い出しただけで、胸が圧迫される感じがして、心臓がドキドキしてしまう。狭い場所に入ることすら怖い。
 東京都内の会社に勤めていた味岡直樹(あじおかなおき)さん(73)は、1995年3月20日の朝、地下鉄日比谷線の中目黒駅でいつもと同じ電車を待っていた。
 午前7時59分発、東武動物公園行き。先頭から2両目の前の方にいた。ここから勤務先まで約30分。通勤ラッシュの時間帯だが、始発なので席に座れた。
 駅のホームで並んでいるときだった。よく晴れた朝なのに、隣の先頭車両の列に、レインコートのような服装で傘を持った若者がいた。「サラリーマンら通勤客ばかりの中で、身なりが全然違うので記憶に残っています」
 オウム真理教元幹部、豊田亨・死刑囚。この電車の先頭車両で、サリンが入った袋を傘で突き刺した。
    ◇
 中目黒駅から二つめの広尾駅のあたりから突然、体調が悪くなった。体がだるく、呼吸が速く、心臓もドキドキした。
 さらに二つ先の神谷町駅に着く直前、トンネル内で電車が一時停止した。先頭車両に目をやると、お年寄りが席から床にずり落ちていた。
 動き出した電車が神谷町駅に到着した。先頭車両に行って、倒れていたお年寄りをほかの乗客と一緒になってホームへと運び出した。「この方は亡くなったと後で聞きました。今考えると、自分も相当危なかった」
 ほかにも数人の乗客がホームでうずくまっていた。それでもまだ、事件が起きているという気はしなかった。
 心臓の具合がおかしく、体調が悪い。「今日は会社を休もう」と決めた。神谷町駅で降り、自宅に帰ることにした。駅の階段をどうやって上ったのか全然覚えていない。「何とか地上に出たものの、左手にけがをしていた。階段の手すりに手をぶつけたのでしょうか」
 タクシーを拾って自宅に戻ると、妻が「霞が関で何か事件が起きている」と言った。このとき、自分も事件に巻き込まれたと初めて気付いた。「すぐに病院に行かなければ」と思った。
 自宅前でタクシーをつかまえた。目がかすんでよく見えない。吐き気もする。どこの病院に行ったらいいのかもわからない。ぐったりしているのを心配した運転手がタクシーの無線で本部に連絡して病院を探してくれた。「聖路加国際病院に患者が集まっているが、すでにいっぱい」「東京都港区の病院が受け入れてもらえそうだ」。無線から情報が入ってきた。その病院に向かった・・・

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