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医療・健康
朝日新聞社

海外旅行で大怪我をしたら トルコで瀕死の重傷を負った日本人の物語

初出:2016年7月4日〜8日
WEB新書発売:2016年7月21日
朝日新聞

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楽しい海外旅行も、トラブルがあれば一瞬にして悪夢に変わることがあります。日本との医療レベルの違い、制度の違い、文化の違いが、迅速な治療や対処の壁となることが少なくありません。トルコでバス横転の事故に遭った女性の体験を元に、海外事故への備えのあり方を考えます。

◇第1章 バス横転、意識不明に
◇第2章 急変リスク覚悟で帰国
◇第3章 えぐれた手、手術で復元
◇第4章 回復は「幸運」、安全訴え
◇第5章 旅行保険の補償に注意


第1章 バス横転、意識不明に

 その事故は2006年10月17日午後6時50分ごろ、トルコ中部の古都コンヤ市内で起きた。日が暮れて大雨が降る中、時速100キロ近くで走っていた観光バスがスリップして蛇行。左の車輪が浮き上がって中央分離帯を突っ切り、反対車線に飛び出して横転した。
 バスには日本の大手旅行社が企画した「お得にトルコ周遊9日間」というツアーに参加した日本人観光客24人が乗っていた。
 当時大学4年生だった、東京都新宿区の会社員、束野仁美(つかのひとみ)さん(32)は、大学の友人と2人で参加していた。4日目のこの日は朝からずっとバス移動で、すでに約600キロ走っていた。
 事故のとき、束野さんは後部座席でぐっすり眠っていた。
 窓ガラスが車内に飛び散り、顔や頭から血を流した人々の悲鳴や泣き声がやむことなく続いた。まるで戦場のような車内で、友人が右隣にいた束野さんを探すと、座席の背もたれにうつぶせで倒れていた。いくら呼びかけても、背中をたたいても反応がなかった。
 バスは右側を下に横転したことから、重傷者の多くは右側の座席にいた人だった。結果的に30代の女性が死亡し、束野さんを含む2人が意識不明の重体、残り21人が骨折などのけがを負った。


 首都アンカラの日本大使館には午後7時半すぎに事故の一報が入った。医務官の阿部吉伸(あべよしのぶ)医師(51)=現・湘南メディカルクリニック新宿院長=は自宅に帰った直後に、大使館からの電話を受けた。
 「大きなバス事故が起こったので、すぐに2、3日の泊まれる準備をして大使館に来てくれ」
 阿部さんは午後8時にアンカラを車で出発し、約250キロ離れたコンヤに06年18日未明に到着した。まず、亡くなった女性の身元を病院で確認した後、束野さんが運ばれた別の病院に向かった。
 到着すると、集中治療室(ICU)とは名ばかりの部屋に、日本では数十年前に使っていた旧式の人工呼吸器を付けた束野さんら2人が横たわっていた。医療スタッフはいなかったが、しばらくして姿を見せた現地の医師が言った。
 「この2人も、たぶん、助からないから手がかけられないな・・・

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