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文化・芸能
朝日新聞社

君こそ写真家! クラウドソーシングが切り開く新写真産業

初出:2016年6月29日〜7月1日、2016年3月7日
WEB新書発売:2016年7月21日
朝日新聞

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ネットを使ってクリエイターと消費者を直接結びつけるクラウドソーシング・サービスが、社会のあり方を変えつつある。その中でも、「写真」は最も熱い分野。夫の転勤につきそい、社会とのつながりを断ち切られた主婦が、出産と育児で忙しいプロカメラマンが、デジタル化で業態転換を迫られた写真館が、クラウドソーシングサイトで写真を売ることで、人生やビジネスの大転換を果たしている。ホットなネット革命の最前線を追う。

◇第1章 撮って投稿 ネットで稼ぐ
◇第2章 ネズミと格闘 アマの才能に着目
◇第3章 ネットの波 プロの道も開く


第1章 撮って投稿 ネットで稼ぐ

 山口県長門市は本州のほぼ西の端、日本海に面した自然が美しい。
 市内のアパート1階。2009年末に東京から夫と引っ越してきた藤井里菜(35)は、いつもカーテンを閉めている。外から部屋をのぞかれたくないからだ。
 雨の日は近くのスーパーに行くぐらいで、あとは部屋の中。青空の日、彼女は一眼レフのデジカメを持って、知人をモデルにカシャッ。車でちょっと遠出してはカシャッ。



 実は、雨の日は部屋で小道具づくりなど撮影の準備をしている。室内でできる撮影も。写真はITベンチャー「ピクスタ」(東京・渋谷)のサービスに投稿し、「お小遣いを超える額」を稼いでは撮影の費用をやりくりする。
 「これがなかったら、私は引きこもりの主婦になっていました」
 藤井は生まれも育ちも東京・渋谷。大学も東京で、理工学部で学んだシステムエンジニアだった。勤務医だった夫が家業の歯科医院を継ぐことになり、09年末、長門に。
 初めての地方暮らしで、この地に友だちはいない。ほとんど外出せず、部屋で過ごしていた。
 ある日、東京の友人らと旅行をした。一眼レフを貸してもらってシャッターを切った。写真の経験といえば使い捨てカメラかプリントシール機か。そんな自分でもいい写真が撮れた。感動してデジカメを買い、カメラ雑誌を読む。そこでピクスタを知った。
 撮った写真を投稿するとピクスタが運営するネット市場にアップされ、企業などが購入。売り上げに応じてピクスタから投稿者に報酬が支払われる。
 投稿者のほとんどがアマチュアだ。ジャンルは人物、風景、何でも良い。ただし、事前審査に通らなければアップされない。
 藤井は2度目のチャレンジで審査を通った。投稿を続けていると、ある日、ピクスタから「1枚売れた」とのメール。
 わたし、認められた!
 病みつきに。人と同じ写真では売れないから、状況設定を考える。「夫の靴下の臭いにウッとする妻」の写真は売れた。
 「怖がる妻の前でゴキブリを退治する夫」は、まだ売れていない。でも、紙でゴキブリをつくるだけでも楽しいし、いつか売れるかもと想像するとわくわくする。「楽しむ妻の姿にホッとしています」と夫。
 写真で稼げるようになり、仕事を辞めた人もいる。竹内正人(42)は元金融マン。リストラされた会社員、提携合意の握手……。そんなビジネスシーンをイメージした写真が、経済誌などを飾る。「金融マンの経験を生かし、どんな写真がどこに売れるか戦略を立てています」
 わたなべりょう(32)は元会社員。「写真そのものを評価して買ってくださることに感謝しています」。トラック運転手だった夫も仕事を辞め、妻を手伝っている。
 藤井、竹内、わたなべ。3人とも「このサービスがなかったら、と思うとゾッとする」と口々に言う。どうやってピクスタは生まれたのか。そこには起業家精神が空回りしかかった若者と、ある小動物との闘いがあった。・・・

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