経済・雇用
朝日新聞社

アベノミクス税制 どこで何が決められてきたか

初出:朝日新聞2016年2月22日〜5月2日
WEB新書発売:2016年7月28日
朝日新聞

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 反射鏡やレンズで世界トップシェアを持つ「岡本硝子」(資本金20億円、従業員340人)。岡本毅社長の表情はさえない。安倍晋三政権が2015年末に決めた税制改正の影響で「おそらく数百万円の増税になる」というのだ。安倍政権は「法人実効税率引き下げ」による減税の穴埋めとして、企業規模などに応じて赤字企業でも納めなくてはいけない「外形標準課税」を増税した。もうけが大きい大企業は減税となるが、もうけが少なかったり、赤字だったりする中堅以上の企業が増税になる――。アベノミクスに注目が集まる一方、国の根幹をなす税の決め方にも変化が見える。大企業減税、自動車税、農地課税、ビール減税などをケーススタディに、アベノミクス税制の実態を追う。

◇第1章 大企業減税、官邸アクセル
◇第2章 政策減税、決めた「一声」
◇第3章 自動車税制、玉虫色の決着
◇第4章 ゴルフ税、蹴られた廃止論
◇第5章 3世代同居、減税誰のため
◇第6章 農地の集積「アメとムチ」
◇第7章 森林環境税、是非置き去り
◇第8章 ビール減税、色めく業界
◇第9章 税の決め方、どうあるべきか


第1章 大企業減税、官邸アクセル

 税金を特別に安くする企業向けの「政策減税」が2014年度に少なくとも1兆円を超え、減税の6割以上を資本金100億円超の大企業が受けていたことが、朝日新聞による財務省資料の分析で判明した。大企業を集中的に応援する「アベノミクス税制」はどのように決まったのか。

 「夢の超特急。最先端技術の結晶です」。安倍晋三首相は1月22日の施政方針演説で、2027年の東京・品川―名古屋間の開通に向けて工事が本格化しているリニア中央新幹線をたたえた。JR東海のリニア開発を後押ししているのが、安倍政権が拡充した政策減税の一つ「研究開発税制」だ。同社が受けた14年度の減税額は192億円。同社は朝日新聞の取材に「鉄道事業にとってリニア開発など不断の研究開発は不可欠」(広報)と答えた。
 研究開発減税の拡充は、安倍氏が首相に返り咲いた12年12月26日から1カ月足らずで決まった。「アベノミクス印」の税制改正の第1弾といえる。

◎首相返り咲き、一気に500億円
 「政権が代わった時点で流れは決まっていた」。経団連幹部はこう振り返る。研究開発減税は、企業が試験研究に投じた費用の8〜10%を法人税額から差し引く「総額型」が中心だが、民主党政権は差し引ける限度額を「法人税額の30%」から「20%」に引き下げ、減税を縮小していた。
 経団連は政権交代前の12年秋、この限度額を30%に戻すよう要望。自民党も年末の衆院選向け政策集に減税拡充を盛った。この流れを受け安倍政権は13年1月11日、「研究開発税制の拡充」を明記した緊急経済対策を閣議決定した。
 ただ、これだけで減税は決まらない。自民党政権では、税に精通した大物議員の発言力が強い自民党税制調査会(党税調)が毎年の税制改正を仕切る「慣習」があるからだ。民主党政権では閣僚中心の「政府税制調査会(政府税調)」が税制を決めたが、政権交代で党税調の権限も復活した。
 党税調は緊急経済対策を踏まえて急ピッチで調整を進め、減税の要件を具体化。1月24日にまとめた「与党税制改正大綱」で正式に決めた。党税調側も「民主党のようなチマチマしたことをやってはいけない」(幹部)と乗り気だったため、首相官邸と党税調の連係プレーで、年500億円規模の減税拡充が一気に実現した。
 政権交代で政府税調も、学者らが中長期的な税のあり方を議論し、政府に提言する旧来の姿に戻った。
 政府税調の分科会は14年、研究開発減税の「総額型」について「大胆な縮減」を求めた。「研究開発をしろとか設備投資をしろと、政府が企業を誘導する時代ではない」(分科会の座長を務めた大田弘子・政策研究大学院大学教授)との考えからだ。
 ところが党税調は15年度税制改正で、研究開発減税の「限度額30%」の恒久化を決めた。党税調が政府税調の提言を軽視する「伝統」も復活した・・・

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アベノミクス税制 どこで何が決められてきたか
216円(税込)

反射鏡やレンズで世界トップシェアを持つ「岡本硝子」(資本金20億円、従業員340人)。岡本毅社長の表情はさえない。安倍晋三政権が2015年末に決めた税制改正の影響で「おそらく数百万円の増税になる」というのだ。安倍政権は「法人実効税率引き下げ」による減税の穴埋めとして、企業規模などに応じて赤字企業でも納めなくてはいけない「外形標準課税」を増税した。もうけが大きい大企業は減税となるが、もうけが少なかったり、赤字だったりする中堅以上の企業が増税になる――。アベノミクスに注目が集まる一方、国の根幹をなす税の決め方にも変化が見える。大企業減税、自動車税、農地課税、ビール減税などをケーススタディに、アベノミクス税制の実態を追う。[掲載]朝日新聞(2016年2月22日〜5月2日、26000字)

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