経済・雇用
朝日新聞社

ものづくりって、めちゃめちゃ楽しい 全国の「下町ロケット」を探して

初出:朝日新聞2016年8月1日〜8月15日
WEB新書発売:2016年9月29日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 「すべての経営判断を、好きか嫌いかで決める」「日本一楽しい会社になる」。群馬県甘楽町(かんらまち)のバネ工場「中里スプリング」の経営方針だ。従業員の幸せを第一に、嫌いな取引先とは縁を切る。「経済合理性や生産性だけを求めるなら、うちは落第です。でも、追求したらしあわせになれますか」と社長は語った――。日本経済の背骨を支える、誇りある中小企業たち。真夏の工場を回り、その実像を追ったルポ。

◇第1章 「好きか嫌いか」の獣道
◇第2章 ライバルの中国だって助ける
◇第3章 思いつきにパワーを添えて
◇第4章 学歴では測れない、救えない
◇第5章 下町ロケット、魔法の塗料
◇第6章 会社丸ごと、今週は夏休み
◇第7章 本当のアリは営業もする
◇第8章 ドライバー守る手工芸品
◇第9章 影武者では終わらない
◇第10章 大の大人が、めちゃめちゃ楽しい


第1章 「好きか嫌いか」の獣道

 真夏。ギラギラ太陽の暑さには、ものづくりに対する熱さが似合う。汗、涙、不屈……。ドラマいっぱいの町工場をたどる。
 まず、群馬県甘楽町(かんらまち)のバネ工場「中里スプリング」、そこの2代目、中里良一(64)の熱い心が築いた「おとぎの国」について、である。その経営方針は、こうなのだ。
 すべての経営判断を、好きか嫌いかで決める。
 時代劇が好きな中里は、「清水の次郎長」にあこがれている。大政、小政、森の石松……。次郎長の愛する子分は28人だから、従業員は最大28人まで、現在21人。
 従業員みんなを愛するため、笑顔が見たいと思えた人を採用した。そして会社の規模を追わず、全員をしあわせにすることだけを考えた。
 中里は、大学を出て、名もない商社の飛びこみ営業マンになった。訪問先で水をかけられるわ、名刺はやぶられるわ。仕事が嫌いになった。
 そのころ、父親から会社が危ないと聞き、24歳で家業に戻る。努力は人知れずするものなので、真夜中の工場でバネ作りを特訓し、従業員に存在を認めさせた。31歳で社長をついだ中里は、宣言した。
 日本一楽しい会社になる。
 「町工場風情が」との非難にも、ぶれなかった。獣道(けものみち)をゆく。それが町工場魂だ。
 従業員もこたえる。バネ作りをトコトン磨いた。いまや1万2千種もの自社ブランドのバネを作る。
 会議も自発的だ。もめ事があると、水面下で解決するため、何人かが集まる。謀(はかりごと)には、悪代官と越後屋が欠かせない。リーダーは、この集まりを「越後屋会議」と名づけた。社長も従業員も時代劇の見過ぎ、かもしれない。
 おもしろいのは、嫌いな取引先とは縁を切ること。上場会社だろうと見下してくる取引先は、こっちから願い下げ。いままでに49社と縁を切った。従業員の笑顔と誇りを守るためだ。
 縁を切っても、新規開拓すればいい。群馬の片田舎にあるのに、4年前に「47都道府県に取引先」を達成した。さらに全国800ほどの市と東京23区の制覇作戦中。23区は制覇し、半分を達成した。取引先は1850社を数える。
 なぜ取引先が増えるのか・・・

購入する

この記事の続きは、WEB新書でお読みいただけます。

ものづくりって、めちゃめちゃ楽しい 全国の「下町ロケット」を探して
216円(税込)

「すべての経営判断を、好きか嫌いかで決める」「日本一楽しい会社になる」。群馬県甘楽町(かんらまち)のバネ工場「中里スプリング」の経営方針だ。従業員の幸せを第一に、嫌いな取引先とは縁を切る。「経済合理性や生産性だけを求めるなら、うちは落第です。でも、追求したらしあわせになれますか」と社長は語った――。日本経済の背骨を支える、誇りある中小企業たち。真夏の工場を回り、その実像を追ったルポ。(2016年8月1日〜8月15日、12100字)

    スマートフォン、タブレットでも読めます。

    Facebookでのコメント

    このページのトップに戻る