社会・メディア
朝日新聞社

カフェは大人の予備校 宮越屋から市場カフェまで 日本全国めぐり歩き

初出:朝日新聞2016年5月24日〜7月26日
WEB新書発売:2016年11月10日
朝日新聞

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一杯のコーヒーが、人生を変えることがある。豊かな香りに包まれながら読んだ本が、一生の伴侶となることもある。そこで出会った人々との何気ない会話が、新しい時代を開くこともある。誰もが自由な時間を楽しめる、そんな魅力たっぷりの全国の「カフェ」をめぐり、ゆかりの人々のお話を聞いてみました。

◇第1章 外と内の「中間」でつながる/いしいしんじさん〜HiFi(ハイファイ) Cafe
◇第2章 名古屋流、まったり喫茶店/大竹敏之さん〜珈琲所コメダ珈琲店
◇第3章 語り合い、苦しみ分かちあう/市澤秀耕さん〜椏久里珈琲 福島店
◇第4章 本が結ぶ隣国との出会い/金承福さん〜ブックカフェ・チェッコリ
◇第5章 一期一会、どこでも哲学/松川絵里さん〜哲学カフェ「カフェフィロ」
◇第6章 ニュートリノの町、身近に/石橋祥二さん〜サイエンスカフェ
◇第7章 ワクワク感、「場」も味わう/田中健介さん〜日本ナポリタン学会
◇第8章 「会話お断り」自分リセット/渡辺太紀さん〜アール座読書館
◇第9章 味引き立てる、和の絵柄/吉住美奈子さん〜ラテアート
◇第10章 気品高い紅茶、楽しんで 田中卓志さん〜喫茶店の紅茶
◇第11章 認知症患者、外出への一歩/武地一さん〜認知症カフェ
◇第12章 透明感ある一杯、次世代に/宮越陽一さん〜宮越屋珈琲
◇第13章 持ち込みOK、文化の拠点に/知念正作さん・沙織さん〜自家焙煎珈琲まちぐゎーみちくさ
◇第14章 路地裏のネコそっくり/川口葉子さん〜東京カフェマニア


第1章 外と内の「中間」でつながる/いしいしんじさん〜HiFi(ハイファイ) Cafe

 仕事をする拠点であり、息抜きの場でもあるのが喫茶店です。
 行きつけの喫茶店は、自宅から歩いて行ける京都市内の街中にあります。この「HiFi(ハイファイ) Cafe」は、町屋を改造した一軒家。靴をぬいで畳の上でコーヒーを飲みながら、文章をまずノートに手書きして、パソコンに打ち込み、原稿を書きます。ゲラを見直すこともあります。週に2回は足を運びますね。最初に来たのは、京都に引っ越して2年後の2011年のこと。連れてきた生後8カ月の長男は、ハイハイして遊んでいました。
 店が開店5周年を迎えたのを機に、小説を書いた一枚のお祝いの紙の包みを、有志でつくりました。5月中旬から、なじみの書店やレコード店などに置いてもらっています。
 2千字余りの短い小説「ハイファイ」は、こんな感じで始まります。
 「むかし、コーヒー一杯を、十時間かけていれる男がおりました。……濃紺の、まわりの闇が、コーヒーカップの表面にときおり落ちこんで、橙(だいだい)や、銀色にかがやく星雲へと、うまれかわったりしております」
 店長は、商売繁盛をうたう神社に行っても別の願いごとをして、商売っ気がない。もり立てたいと企てました。
 この店もそうですが、狭い京都では知り合いの知り合い、といった人とよく顔を合わせます。そこで会話を交わす喫茶店文化がある町と言えますね。若いころにいた東京では、家のドアを開けると外ですが、京都では外でも内でもない「中間」があると思う。互いに重なり合う場所が喫茶店なのです。
 町が開かれている、というのでしょうか。小さな本屋やレコード店のカウンターで、コーヒーを出して客と談笑する。京都ではこうした店は珍しくありません。
 そのためか、店にまつわる文章を書く機会も多くあります。頼まれたり、私から買って出たりと経緯はさまざまですが、書店の丸善京都本店では昨年12月から、短編より字数の少ない掌編小説の連作「フルーツ」の5話。中古レコード・古書店は今年3月、やはり掌編の「100000tのレコード」。3年前には、コーヒーも飲める創立100周年を迎えたパン屋「進々堂」で、小説「毎日のパン」が30ページほどのポケットサイズの冊子になり、昨年12月に第2弾もできました。
 いずれも、店先で無料で配られたり、店の片隅に置いてもらったり。喫茶店、本屋、レコード店と看板は違っても、人と人が出会って話す「中間」の領域である点は、どこの店も同じ。他の町にはないつながりの場、と感じています・・・

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この記事の続きは、WEB新書でお読みいただけます。

カフェは大人の予備校 宮越屋から市場カフェまで 日本全国めぐり歩き
216円(税込)
  • 著者川本裕司、畑川剛毅、編集委員・駒野剛、桜井泉、村上研志、尾沢智史、吉沢龍彦、吉川啓一郎、萩一晶
  • 出版社朝日新聞社
  • 出版媒体朝日新聞

一杯のコーヒーが、人生を変えることがある。豊かな香りに包まれながら読んだ本が、一生の伴侶となることもある。そこで出会った人々との何気ない会話が、新しい時代を開くこともある。誰もが自由な時間を楽しめる、そんな魅力たっぷりの全国の「カフェ」をめぐり、ゆかりの人々のお話を聞いてみました。(2016年5月24日〜7月26日、15500字)

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