世相・風俗
朝日新聞社

高齢者の性と愛、どう考える? つないだ手は

初出:朝日新聞2002年2月10日〜2月15日、3月3日〜3月8日
WEB新書発売:2016年12月15日
朝日新聞

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 東京都内にある特別養護老人ホーム。車いすの大さん(87)は、入居したときは寝返りも打てず、声も出ず、表情もなかった。食事も排泄も介助が必要で、死も間近かと思われた。ところが、毎月一回、日活ロマンポルノを見る「紳士のクラブ」で映画を見始めたところ、大さんはどんどん元気になった。軍歌を歌い、焼肉をほおばり、車椅子の風船バレーボールに興じる。職員は大さんの変化に驚いた……。

◇第1章 生きる力、呼び覚まされて
◇第2章 二人のきずな、60歳で出産
◇第3章 本当の恋をしてみたい
◇第4章 「薬」で気持ちは置き去り
◇第5章 共に越えた更年期のつらさ
◇第6章 [反響編1] 私に潤い、再びの恋
◇第7章 [反響編2] 愛することで輝いて
◇第8章 高齢者の性、どう受け止める/介護の現場から
◇第9章 関心やふれあい、前向きに/高齢期の性、調査からみると


第1章 生きる力、呼び覚まされて

 薄暗い会議室。車いすに座るお年寄りの後ろ姿が影絵のように浮かぶ。
 横に2列、14人。スクリーン代わりの白い壁いっぱいに、つややかな肌が広がる。
 東京都内にある特別養護老人ホームでは、毎月1回、「紳士のクラブ」が開かれる。希望者が、30年ほど前の日活ロマンポルノを見る会だ。毎回15人前後、ときに女性もまじる。
 この日、上映されたのは「色暦大奥秘話」。若侍と大奥の奥女中が、御法度の恋を貫く物語だ。
 崩れ落ちる2人。きぬずれの音。ぐっと抱き寄せる場面になると、車いすのお年寄りの体が、ゆっくりと前のめりになる。不自由な体で左下に大きく傾き、必死に首を持ち上げてスクリーンを見上げる人がいる。「ナンマイダ、ナンマイダ」とつぶやく人もいる。
   ◇
 車いすで腕組みしている大さん(87)=仮名=は98年12月、入居したときは寝返りも打てず、声も出ず、表情もなかった。痴ほう症で2年半いた病院では、手足を縛られもした。腰には肉がえぐれ骨が見える15センチの床ずれ。食事も排せつも介助が必要で、死も間近と思われた。
 職員が床ずれの手当てをし、話しかけても一進一退が続いた。どうも元気が出ないので、2年前「ショック療法」で、このクラブに参加してもらうことにした。ベッドのように背中を倒せる車いすで初めて見たのが「四畳半襖(ふすま)の裏張り」。恋に落ちた二等兵と芸者さんが、シベリア出兵で引き裂かれる。
 画面から軍隊のラッパが鳴った時だ。大さんが突然「新潟県出身鈴木大」と叫んだ。自分の名前。職員はこんなはっきりした声を初めて聞いた。
 大さんは農家の三男に生まれ、召集されて陸軍に入った。戦後、消防士になり結婚して3児の父となった。退職後は東京都内で家族と暮らしていたが、8年前に痴ほう症になった・・・

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高齢者の性と愛、どう考える? つないだ手は
216円(税込)

東京都内にある特別養護老人ホーム。車いすの大さん(87)は、入居したときは寝返りも打てず、声も出ず、表情もなかった。食事も排泄も介助が必要で、死も間近かと思われた。ところが、毎月一回、日活ロマンポルノを見る「紳士のクラブ」で映画を見始めたところ、大さんはどんどん元気になった。軍歌を歌い、焼肉をほおばり、車椅子の風船バレーボールに興じる。職員は大さんの変化に驚いた……。(2002年2月10日〜2月15日、3月3日〜3月8日、12800字)

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