文化・芸能
朝日新聞社

今宵も、ディープな酒場へ 生きていて良かったなあ

初出:朝日新聞2016年12月22日 〜2017年1月14日
WEB新書発売:2017年3月9日
朝日新聞

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 しびれる琥珀色の「デンキブラン」、大阪・新世界の「立ち呑み 小春」、八丈島で飲む焼酎「島流し」、元祖チューハイにハイワサー。「3個250円のギョーザをつまみにグイグイ飲む。シメは名物の木くらげ玉子丼。辛みのある濃い味つけに木くらげのコリッとした食感。これがまたハイサワーの酸味とよく合う。生きていて良かったなあ、としみじみ思う瞬間である」。下町文化に詳しい朝日新聞の小泉信一・編集委員が各地の酒場を訪ね歩く連載「さあ、もう一軒」を電子書籍化。

◇第1章 しびれる「デンキブラン」昼の浅草で
◇第2章 新世界、銭湯経由で立ち飲みへ
◇第3章 焼酎「島流し」、島の歴史に思いはせ
◇第4章 極上の酒場で、元祖チューハイを
◇第5章 「ハイサワー」のハイ、実は漢字です


第1章 しびれる「デンキブラン」昼の浅草で

 食通で知られた作家・池波正太郎が書いている。
 「冬が来て、一年が終わろうとするころ、日本の味覚のゆたかさは、まさにクライマックスを迎えることになる。魚では鮪(まぐろ)、河豚(ふぐ)、蟹(かに)、鰤(ぶり)、鮟鱇(あんこう)、寒鮒(かんぶな)、鱈(たら)、鮃(ひらめ)」(『江戸前食物誌』)
 その言葉を借りれば、酒場巡りもクライマックスとなる。日本酒なら熱かん、焼酎ならお湯割り。空気が乾燥しているので生ビールでのどを潤すのもいい。
 記者が向かったのは池波が生まれた東京・浅草。1丁目1番1号にある「神谷バー」だ。明治13(1880)年に開業した「日本最古の洋風酒場」。この日も午前11時半に開店するや、たちまち満席に。
 「こいつぁ飲み過ぎると腰から下がしびれちまうんだ」。ご隠居風の老人が若い女性に指南している。手にしているのは朝顔型の小さなグラス。琥珀(こはく)色の液体が注がれている。店の名物「デンキブラン」である。


 初代社長の神谷傳兵衛(でんべえ)が考案。明治15年に誕生した。ブランデーを主体にワインやジン、キュラソーなどを含むが、製造法や配合の割合は秘伝。アルコール度数は30度と40度の2種類あり、かなりきつい。
 それにしても本当にしびれるのか。
 この酒が生まれたのは「電気」という言葉がモダンな響きを持っていた明治時代である。映画館を「電氣館」、わたあめを「電氣あめ」と呼んだようにハイカラなものは「電氣○○」と呼ばれていた。「電氣ブランデー」とネーミングした伝兵衛のセンスと商才が当たる。うわさ好きの下町っ子の間で評判となった。
 誕生から130余年。忘年会でもデンキブランは人気者。老いも若きも顔を赤くし、グラスを傾けている。「ぐいぐいやっちゃ駄目だよ。生ビールと交互にちびちびやるんだ」。上司らしき男性が若手社員に飲み方を伝授していた。おっしゃる通り。ビールをチェイサーがわりにして飲むのが流儀である・・・

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今宵も、ディープな酒場へ 生きていて良かったなあ
216円(税込)

しびれる琥珀色の「デンキブラン」、大阪・新世界の「立ち呑み 小春」、八丈島で飲む焼酎「島流し」、元祖チューハイにハイワサー。「3個250円のギョーザをつまみにグイグイ飲む。シメは名物の木くらげ玉子丼。辛みのある濃い味つけに木くらげのコリッとした食感。これがまたハイサワーの酸味とよく合う。生きていて良かったなあ、としみじみ思う瞬間である」。下町文化に詳しい朝日新聞の小泉信一・編集委員が各地の酒場を訪ね歩く連載「さあ、もう一軒」を電子書籍化。(2016年12月22日 〜2017年1月14日、6500字)

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