文化・芸能
朝日新聞社

ものがたり巡礼の旅 東海の9カ所を歩く

初出:朝日新聞2017年1月1日〜10日
WEB新書発売:2017年5月11日
朝日新聞

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 フランス料理の高級食材「エスカルゴ」。三重県松阪市にある養殖場「エスカルゴ牧場」は、津原泰水の小説「エスカルゴ兄弟」に出てくる施設のもとになっている。経営者は登場人物のモデルでもある。事実は小説より奇なり。経営者はユニークな人物で、作者は「小説だと普通は誇張するが、逆をしなければいけない人は初めて」。東海地方は多くの文学作品の舞台。ほかに「忍びの国」(和田竜著)、「篝火」(川端康成著)、「伊勢物語」(作者不詳)などいくつかの作品を手に、「聖地」を巡礼する旅に出かけた。

◇第1章 「華麗なる一族」山崎豊子著
◇第2章 「グッモーエビアン!」吉川トリコ著
◇第3章)「伊勢物語」作者不詳
◇第4章 「セメント樽の中の手紙」葉山嘉樹著
◇第5章 「忍びの国」和田竜著
◇第6章 「篝火」川端康成著
◇第7章 「エスカルゴ兄弟」津原泰水著
◇第8章 「風は山河より」宮城谷昌光著
◇第9章 「神去なあなあ日常」三浦しをん著


第1章 「華麗なる一族」山崎豊子著

 《陽が傾き、潮が満ちはじめると、志摩半島の英虞湾に華麗な黄昏が訪れる。》

◎夕暮れの絶景、描写に苦心/「シマカン」定宿に多くの名作
 英虞(あご)湾を一望できる志摩観光ホテルのレストラン「ラ・メール ザ クラシック」には、夕暮れ時の数分間だけ見られる絶景がある。食事をする人たちの手が止まり、誰もが息をのんで釘付けになる。作家の山崎豊子さんも愛した「英虞湾の黄昏(たそがれ)」だ。
 その一瞬、空一面が燃えたち、空と海とが溶け合うように炎の色に輝く――。
 華やかな財閥一家を描いた小説「華麗なる一族」は、このレストランからの風景描写で始まる。志摩観光ホテルは伊勢志摩サミットの会場ともなったが、「シマカン」と聞くと、この小説を思い浮かべる人はいまだに多いだろう。
 小説の象徴ともいえる英虞湾の黄昏は、ホテルを定宿にした山崎さんが沈み行く夕日を様々な角度から何日も眺め、ようやく書き上げた描写だった。「この数行を書き得た時の喜びは、今もって忘れられない」と後に書き残している。


 山崎さんは、開業5年目の1955年からホテルを利用し、デビュー作の「暖簾(のれん)」から「花のれん」「不毛地帯」など、数多くの名作を執筆した。ホテルの30周年に合わせた寄稿には、「志摩観光ホテルは、いみじくも私の作品とともに歩んだホテルである。(略)いわば、私の作品のふるさとともいうべき、存在である」と記している。
 「華麗なる一族」の登場人物一家と同様、山崎さんは新年の三が日をホテルで過ごすのが恒例だった。
 「本当にリラックスした様子でした。仕事や嫌なことを忘れられる唯一の場所だったんでしょう・・・

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ものがたり巡礼の旅 東海の9カ所を歩く
216円(税込)
  • 著者井上昇、日高奈緒、本井宏人、森川洋、中田和宏、吉住琢二、広部憲太郎、鷹見正之、田中翔人
  • 出版社朝日新聞社
  • 出版媒体朝日新聞

フランス料理の高級食材「エスカルゴ」。三重県松阪市にある養殖場「エスカルゴ牧場」は、津原泰水の小説「エスカルゴ兄弟」に出てくる施設のもとになっている。経営者は登場人物のモデルでもある。事実は小説より奇なり。経営者はユニークな人物で、作者は「小説だと普通は誇張するが、逆をしなければいけない人は初めて」。東海地方は多くの文学作品の舞台。ほかに「忍びの国」(和田竜著)、「篝火」(川端康成著)、「伊勢物語」(作者不詳)などいくつかの作品を手に、「聖地」を巡礼する旅に出かけた。(2017年1月1日〜10日、12100字)

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