経済・雇用
朝日新聞社

おまえのサラリーマン人生は終わったな 左遷をチャンスに変えた人々

初出:朝日新聞2017年7月28日〜8月8日
WEB新書発売:2017年9月7日
朝日新聞

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「あいつが戻るとうるさいから、という人がいて……。本部の部長にする人事案は通りませんでした」元銀行マンで作家の江上剛さんは、旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)高田馬場支店長から築地支店長へ異動する際、人事部の親しい後輩からこんな電話を受けた。高度成長期に終身雇用や年功序列の仕組みが定着した大企業は「ムラ社会」を継承する共同体だと江上さんは指摘する。創業者という「神」をまつり、相談役や顧問といった「長老」を敬い、みんな同じ言葉で語る。ムラでは空気を読み、トップの意向を忖度できる人が重用される。直言などもってのほかだ――。サラリーマンである以上、避けられないのが人事異動だが、不合理や不条理も多い。その反面、左遷をきかっけに人生の軌道修正や反転攻勢に成功した人もいる。「左遷」をめぐるさまざまな人生模様を追った。

◇第1 大逆転!いまも可能か
◇第2章 周囲は本人ほど気にしない
◇第3章 恐怖を忠誠心に転化する
◇第4章 干された5年、そこで楽しむ
◇第5章 昇進すれば、かえって悲しい
◇第6章「物語」は会社の向こうに
◇第7章 「降りる」のは怖いけれど
◇第8章 居場所があると見えづらい
◇第9章 会社を利用しつくす
◇第10章 クビではない、脇役もある


第1 大逆転!いまも可能か

 創業128年を迎えた繊維メーカーのセーレン(本社・福井市)。会長の川田達男(かわだたつお)さん(77)は、新入社員の時に同期に言われた言葉を今もはっきりと覚えている。
 「おまえのサラリーマン人生は終わったな」
 1962年、福井精練加工(現セーレン)に入社した同期6人の中で、工場勤務を命じられたのは川田さんだけ。文系の大卒は、本社の経営企画や総務などに行くのが普通だった。
 理由は、会社のあり方を批判したことにあった。
 当時は、注文通りに生地を染色し、加工賃をもらうビジネスが主力だった。在庫リスクがなく、収益力は高いが、企画や開発機能が乏しい。
 川田さんは研修時の日誌に「頭脳がない手足だけの会社」と書いて提出した。自分の頭で考えない会社に将来はないと思った。それが役員の逆鱗(げきりん)に触れたのだ。
 だが、工場勤務は楽しかった。文系大卒が珍しかったのか、「よく来てくれた」と大事にされた。生産管理の仕事をしながら、現場の人たちと苦労をともにして実務を覚えていった。運動会などのイベントも懸命に取り組んだ。
 5年半で営業本部に異動。そこで「新しいことに挑戦すべきだ」と主張して上司と対立。32歳で製品開発グループへの異動を命じられた。
 当時の会社に「開発」が必要な製品・分野はなかった。同僚の3人は「厄介者」ばかり。上司は「好きなことをやれ」といった。つまり、ミッションはなにもない。
 では、どうする? 自分たちでモノを作って、売って、見返そう――。川田さんたちは、自動車シートに使う生地を開発し、メーカーに売るプロジェクトに取り組んだ。
 大手自動車メーカーに需要はあった。だが、社内は「在庫や品質面でのリスクが高い」と大反対。「オレの目の黒いうちにはやらせない」と息巻く幹部もいた。
 しかし、当時の副社長が理解を示した。川田さんが始めた自動車向け内装材の仕事は、時流に乗った。時は70年代。モータリゼーションが進む一方、創業時からのなりわいだった染色加工事業は急速に落ち込んでいった。傍流が主流になった。
 川田さんは部長、取締役に進み、87年に47歳で社長に就任した。セーレンは今、自動車内装材のほか、ファッション、医療、エレクトロニクスまで事業を拡大した。
 「左遷があったから今がある」と川田さんは語る・・・

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おまえのサラリーマン人生は終わったな 左遷をチャンスに変えた人々
216円(税込)

「あいつが戻るとうるさいから、という人がいて……。本部の部長にする人事案は通りませんでした」元銀行マンで作家の江上剛さんは、旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)高田馬場支店長から築地支店長へ異動する際、人事部の親しい後輩からこんな電話を受けた。高度成長期に終身雇用や年功序列の仕組みが定着した大企業は「ムラ社会」を継承する共同体だと江上さんは指摘する。創業者という「神」をまつり、相談役や顧問といった「長老」を敬い、みんな同じ言葉で語る。ムラでは空気を読み、トップの意向を忖度できる人が重用される。直言などもってのほかだ――。サラリーマンである以上、避けられないのが人事異動だが、不合理や不条理も多い。その反面、左遷をきかっけに人生の軌道修正や反転攻勢に成功した人もいる。「左遷」をめぐるさまざまな人生模様を追った。(2017年7月28日〜8月8日、12600字)

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