経済・雇用
朝日新聞社

トイレ掃除はなぜ会社を変えるのか 世界に広がる雪隠拝見の精神

初出:朝日新聞2015年6月8日〜18日
WEB新書発売:2017年9月7日
朝日新聞

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政界に転じる前に帝国ホテル社員だった衆院議員の野田聖子氏は、トイレを徹底的に掃除した後で便器の水を飲んだ体験を語った。帝国ホテルでは、新入社員に客室の掃除の仕方をみっちり仕込む。便器はどこから見ても汚れがないように入念に拭き清めさせるのだ――。日本では、企業経営や地域社会の現場で、「トイレ掃除」がクローズアップされることが少なくない。海外からの観光客も日本のトイレのきれいさは好評だし、歴史を遡っても、仏教は「掃除で心を磨く」ことを強調し、茶道は客人に茶道具や調度と並んで雪隠を披露する「雪隠拝見」が作法となっている。そしてこの流れは、海外にも広がる……。「きれいなトイレ」が描き出す日本文化の意外な深みをめぐるルポ。

◇第1章 試練の時になぜか頼る
◇第2章 「下座」から市中へ出向く
◇第3章 雪隠でオモテナシ
◇第4章 これは経営学のテーマだ
◇第5章 グーグルには似合わない
◇第6章 共感とマネーを結ぶ
◇第7章 元から断たなきゃ
◇第8章 ローマで異文化に挑む
◇第9章 世界かガラパゴスか


第1章 試練の時になぜか頼る

 リーマン危機から東日本大震災に続く日本経済の試練で、掃除、それもトイレ掃除に向かう人々が目に付かないか。植村花菜「トイレの神様」のヒットが2010年。お掃除アイドルグループの走りは11年春。その夏に「トイレ掃除の経営学」という本が出た。大阪商工会議所が「経営者掃除大学」などの啓発活動を締めくくった昨年のシンポジウムは大盛況だった。
 「米国で大勢にMBA(経営学修士)を取らせ、学者やコンサルタントの話も聞き、改革はやり尽くしたはずなのに、会社は風通しが悪く社員の表情は暗い。原点回帰の道が渇望されていました」と担当者は会場の空気を語る。
 これは日本だけの話か。普遍的に企業経営に役立つなら、そこにグローバリズム一色ではない、多様な経営と資本主義を考える入り口がないか。そんな思いでトイレ掃除をたどってみる。
 この道の典型的な会社が岐阜県恵那市にある東海神栄電子工業のグループだ。ロボット制御装置のプリント配線基板など電子部品を作る。
 転機はやはり試練だった。四半世紀前に世を覆った「バブル崩壊」による業績の急降下と労使対立だ。
 当時、ステンレス板をエッチング加工するラインは廃液が床にたまり、社員は異臭のなか長靴で作業していた。材料や製品の整理も行き届かず、不良品の増加が収益を圧迫。社長の田中義人(68)は「業界の宿命」と諦めていた。加えてバブル期に上昇した賃金の引き下げには一部の社員が強硬に反発した。
 1991年。地元の催しで、自動車用品販売のイエローハット創業者、鍵山秀三郎(81)に会い、「掃除で会社が変わる」と聞いてピンと来た・・・

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トイレ掃除はなぜ会社を変えるのか 世界に広がる雪隠拝見の精神
216円(税込)

政界に転じる前に帝国ホテル社員だった衆院議員の野田聖子氏は、トイレを徹底的に掃除した後で便器の水を飲んだ体験を語った。帝国ホテルでは、新入社員に客室の掃除の仕方をみっちり仕込む。便器はどこから見ても汚れがないように入念に拭き清めさせるのだ――。日本では、企業経営や地域社会の現場で、「トイレ掃除」がクローズアップされることが少なくない。海外からの観光客も日本のトイレのきれいさは好評だし、歴史を遡っても、仏教は「掃除で心を磨く」ことを強調し、茶道は客人に茶道具や調度と並んで雪隠を披露する「雪隠拝見」が作法となっている。そしてこの流れは、海外にも広がる……。「きれいなトイレ」が描き出す日本文化の意外な深みをめぐるルポ。(2015年6月8日〜18日、11200字)

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