教育・子育て
朝日新聞社

赤ちゃんポスト10年が語るもの 預けられた125人

初出:朝日新聞2017年5月6日〜25日
WEB新書発売:2017年10月12日
朝日新聞

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「おれ、なんで捨てられたの? 要らなかったの?」息子からこう聞かれた女性は、「お陰で家族になれてうれしい」とぎゅっと抱きしめた――。親が自分で育てられない子どもを匿名で預かる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)が、熊本県の慈恵病院に開設されて10年になる。預けられたのは120人以上。子どもにとって最善の選択なのかという懸念も抱えつつ、望まない妊娠で孤立する母親たちが絶えないという現実を映している。預けた親や子は、どんな事情を抱え、どんな未来に向かおうとしているのか。いくつかのケースを取材するとともに、10周年を迎えた関係者の思いをたどった。

◇第1章 育てる決意くれた
◇第2章 生い立ち、一緒に向き合う
◇第3章 母親を責める状況にない
◇第4章 「追い詰められる母親、匿名重要」
◇第5章 「必要な人に情報を」


第1章 育てる決意くれた

 幼稚園に通う男の子が母親と手をつなぎ歩く。にこにこ笑顔で、道路を見ては「あ、ショベルカー」、池を見ては「コイがいる!」。20代の母親は「かわいいですよ」と頭をなでる。
 「消えてなくなれ」。一度はそう思った命だった。10代での望まない妊娠。周りに打ち明けられずに一人で産んだ後、「ゆりかご」に託した。男の子は、16年3月末までに預けられた、125人の中の一人だ。

 妊娠したのは、地元の九州を離れ、中部地方の看護の専門学校に通っていた時だった。交際していない男性と1回だけセックスした。生理が来ない。検査薬で調べると陽性だった。「どうしよう……」。学生では育てられない。中絶も考えたが、ずるずると日が過ぎた。「逃げてましたね」と当時を振り返る。
 おなかはどんどん大きくなる。学校にばれれば退学になるかもしれない。周囲にはひた隠しにした。唯一話した友人には「産んじゃえ、産んじゃえ」と軽いノリで言われ、相談する気がなくなった。「生理来てる?」と心配する人には、「太りました」とうそをついた。頑固な父に告げて怒られるのも怖かった。相手の男性とはそれっきりで、相談しなかった。

◎めちゃかわいい
 「流れないかな」。おなかに重い物を入れたバッグを落とした。「このまま誰にも気づかれずにすめば」。だが、命は強かった。
 夏のある日、急におなかが痛くなった。学校の寮の部屋でひとり、うめき声を上げ続け、気づいた。「そろそろ出産の時期だ」。男の子をトイレで産んだ・・・

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赤ちゃんポスト10年が語るもの 預けられた125人
108円(税込)

「おれ、なんで捨てられたの? 要らなかったの?」息子からこう聞かれた女性は、「お陰で家族になれてうれしい」とぎゅっと抱きしめた――。親が自分で育てられない子どもを匿名で預かる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)が、熊本県の慈恵病院に開設されて10年になる。預けられたのは120人以上。子どもにとって最善の選択なのかという懸念も抱えつつ、望まない妊娠で孤立する母親たちが絶えないという現実を映している。預けた親や子は、どんな事情を抱え、どんな未来に向かおうとしているのか。いくつかのケースを取材するとともに、10周年を迎えた関係者の思いをたどった。(2017年5月6日〜25日、7200字)

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