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朝日新聞社

その瞬間、白鵬は涙を見せた 〈角界余話〉

初出:2018年1月15日〜26日
WEB新書発売:2018年2月15日
朝日新聞

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 1939年1月。大相撲では双葉山が敗れて連勝記録が止まり、場内は大騒ぎになった。しかし、大金星をあげた力士は師匠からこう諭された。「勝って騒がれるより、負けて騒がれる力士になりなさい」。その言葉を心にとめたのが現代の横綱・白鵬だ。白鵬が敗れて場内が大騒ぎになった時、一時はふさぎこんだが、のちに「そういう力士になれたのかも知れない」と話した。大相撲は元横綱の暴行事件や行司のセクハラ問題など不祥事が続く。白鵬自身、暴行事件に関連して処分を受けている。人気の「角界余話」。今回も大相撲のさまざまな話題を取り上げる。

◇第1章 優勝額仰ぎ気力絞った 旭天鵬の雄姿5年半、交代
◇第2章 トップ不在、副立行司の復活は
◇第3章 下駄脱ぎ雪駄履けるまで
◇第4章 結構な出費、庄之助の房
◇第5章 「天才」今も土俵に描く夢
◇第6章 大鵬の「夢」、孫が挑戦
◇第7章 金星あげたら特典あるの?
◇第8章 人傷つけられず、運転だめ
◇第9章 33年眠る、雪溶かす仕掛け
◇第10章 喜び出さぬ美学、脈々と
◇第11章 「負けて騒がれる力士に」


第1章 優勝額仰ぎ気力絞った 旭天鵬の雄姿5年半、交代

 新春を寿(ことほ)ぐ、大相撲初場所が始まった。日馬富士の暴行事件に立行司式守伊之助のセクハラ問題と不祥事が続いた大相撲だが、前売り切符は完売するなど、今場所も「満員御礼」が続きそうだ。
 国技館の天井近くの壁面には計32枚の優勝額が飾られており、年3度の東京場所ごとに2枚ずつ新しいものに置き換えられていく。
 初日前日の13日朝。5年半前に飾られた2枚が取り外され、昨年秋場所の日馬富士と九州場所の白鵬のものに入れ替えられた。
 外された1枚が、旭天鵬の額だ。2012年夏場所。栃煌山との優勝決定戦を制した、あの涙の初優勝を思い出す相撲ファンも多いのではないだろうか。
 旭天鵬の優勝額は、国技館の西の花道からよく見える位置に飾られていた。友綱親方となった旭天鵬は、「あの額にずいぶん励ましてもらったんだ」と振り返る。優勝後、40歳を過ぎた旭天鵬は新たな場所を迎えるたびに体力の衰えを感じていたが、取組前に自らの額を見上げ、「俺は賜杯(しはい)を抱いた男。無様な相撲は取れない」と気力を振り絞って土俵を務めていた。
 縦3メートル以上、畳4・5枚ほどの大きさがある優勝額は、一般の事務所や家屋には入らない。力士の母校や地元の役場などに飾られるケースが多いが、モンゴル出身の旭天鵬には、日本には母校も地元もない。
 以前から世話になっているという京都・宇治の神社に引き取ってもらうという。「ずっと飾ってくれるっていうから」
 5年半で入れ替わる優勝額。実は、あと1年半で国技館から消えてしまうものがある。
 かつての優勝額は3枚の白黒写真をつなぎ合わせ、絵の具で色をつけていた。1951年から60年以上にわたり、彩色家の佐藤寿々江さんが手がけてきた。4年前、高齢を理由に引退。2014年初場所から、優勝額はカラー写真に切り替わった。
 1年ほど前に佐藤さんは88歳で亡くなった。生前、「私にとって人生そのもの」と語っていた作品は、東方の壁面を飾っている8枚のみ。来年5月の夏場所前に国技館から消える・・・

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