【お知らせ】WEB新書は閉店しました。

スポーツ
朝日新聞社

松坂のいた夏 横浜×PL学園甲子園準々決勝

初出:2015年1月13日〜3月21日
WEB新書発売:2018年2月22日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

「いけいけ」は外角。「狙え狙え」は内角。そして、「絞れ絞れ」が変化球。PL学園主将で三塁ベースコーチだった平石洋介は、相手投手のフォームから球種を読み取り、打者にこんなメッセージを送っていた――。松坂大輔を擁する横浜と、名門PL学園が、延長17回を戦った1998年の第80回記念全国高校野球選手権大会準々決勝(「横浜―PL学園」)。球史に永遠に名を残す伝説の名勝負には、どんなドラマが展開していたのか。当事者に再取材し、当時は明らかにされていなかった新事実を交えて、「あの夏」を浮き彫りにする50章のレポート。

◇第1章 松坂攻略の真実、さらに奥へ
◇第2章 声、僕は聞こえてへん
◇第3章 内角変化球をとらえた
◇第4章 お前は最初の直球を狙え
◇第5章 捕手を混乱させようと
◇第6章 選抜の衝撃、これが松坂か
◇第7章 雪辱誓い、何でもした
◇第8章 剣道の小手はめて特訓
◇第9章 主将の意地、反撃2ラン
◇第10章 そうこなくっちゃ
◇第11章 みんなで行こうぜ
◇第12章 ついに追いついた
◇第13章 あの時と同じやんか
◇第14章 間一髪、タッチアウト
◇第15章 「ゴロゴー」当時から
◇第16章 あの手この手の強化策
◇第17章 魔物なんていない
◇第18章 「史上最弱」からスタート
◇第19章 間違って伝わった指示
◇第20章 人生変えた突然の出番
◇第21章 因縁の対決は延長戦へ
◇第22章 「自責点やないでしょ?」
◇第23章 譲れない6度目の対決
◇第24章 あと1死、土壇場でタイム
◇第25章 まだ試合は終わりません
◇第26章 「大輔と対等」上重の幸せ
◇第27章 目に焼きつけた桑田先輩
◇第28章 痛めてしまった左手
◇第29章 真夜中に響く努力の音
◇第30章 延長十六回、再び動き出す
◇第31章 「テレビ見たい」身もだえた
◇第32章 ぼくの足で勝負だ
◇第33章 本塁送球、大きくそれた
◇第34章 どん底スラッガー
◇第35章 今日勝たんと意味ない
◇第36章 モー娘。も、マグワイアも
◇第37章 かき消された「タイムとれ」
◇第38章 三羽がらす、最後の一人
◇第39章 秘密のアイコンタクト
◇第40章 一番いい役をもらった
◇第41章 49試合目、グラウンドも疲労
◇第42章 スローモーションのように
◇第43章 勝って泣く顔、負けて笑う顔
◇第44章 3度の礼、ネット裏にも
◇第45章 やっぱり化けもん
◇第46章 失敗、きっとプラスに
◇第47章 負けても自信になった
◇第48章 延長戦は今でも続く
◇第49章 帰ってきた「平成の怪物」
◇第50章 あれ以上苦しい試合、いまだない


第1章 松坂攻略の真実、さらに奥へ

 延長十七回の名勝負を、わずか17日後に「伝説」へと昇華させた番組がある。
 1998年9月6日に放送されたNHKスペシャル「延長17回〜横浜?PL学園・闘いの果てに〜」。「高校野球最高の技術と戦術を駆使した試合」として、勝負のあやとなるシーンを解き明かした。
 Nスペでやるという決断は8月20日の試合直後に下された。ディレクターの森田智樹(49)は、前年に施行された臓器移植法に関する取材を中断し、担当となった。午後8時、同僚と2人で中継映像のチェック作業を始めた。「1球1球を表にして、選手の動きなどを書きだした」と森田。作業は朝方まで続いた。
 両チームに不思議な動きがあることに気づいた。
 試合は二回、PL学園が横浜のエース松坂から一挙3点を先行して幕を開ける。注目を集める超高校級右腕が先取点を許すのも、1イニングに2点以上とられるのも、今大会初めてのことだった。
 どうして、こんなに打たれたのだろうか。
 松坂が投げる直前、集音マイクが同じ声を拾っていた。
 声の主は、PL学園主将で三塁ベースコーチの平石。捕手の構えから球種を見破り、打者に伝達していたとインタビューで証言してくれた。
 「際どいコースに構えた時は、だいたいストレート。逆に大きく、どこでも捕れるように構えると変化球。けっこう分かりました」
 三塁側の横浜ベンチも、目の前にいる平石の行為に気づき、捕手の動きから球種を見破られていると判断した。
 「いけいけ」と叫んだら、ストレート。
 「狙え狙え」と言ったら、変化球――。
 「せっかくNスペでやるんだから、一生懸命とか、汗と涙といった高校野球のイメージとは違う番組にしたかった」と森田は振り返る。同年のNHKスペシャル最高視聴率15・9%をマークした。
 「ただ、あの内容はちょっと違ってるんですよ」。森田が苦笑しながら打ち明ける。証言を裏付ける映像を整理したところ、一致しないケースがあることに気づいた。それで平石に確認に行くと、「これ以上は勘弁して下さい。後輩はこれからも試合がありますから」と懇願された。
 「それなら彼の証言のまま番組にしようと判断した」と森田。平石の思いをくみ、配慮したのだ。
 真実は、どうだったのか・・・

このページのトップに戻る