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政治・国際
朝日新聞社

満州の月と星〔2〕 みんな国にだまされていた

初出:2017年5月20日〜2018年1月30日
WEB新書発売:2018年3月22日
朝日新聞

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 「考えてみればみんな、国にだまされていたんです。私たちは国が宣伝するように、満州を本当に理想の国にしようと思って行ったけれど、本当の国の狙いは満州を属国にしようとしていたんです。そして、仕事を持たない日本人を、どんどん送り込もうとしていた。全部が間違っていたんですよ」――。動乱の満州を生き抜き、帰国後も残留孤児支援や戦争体験を語り継ぐ運動に取り組んだ故三田照子さん(取材後の2017年4月死去。享年98歳)に、筆舌に尽くしがたい体験と、平和への思いを語っていただいた、ロングインタビューの後編です(約2万7000字)。

◇第1章 野垂れ死に、傷病兵の現実
◇第2章 男性たちは八路軍の使役に
◇第3章 中華民国の旗掲げ歓迎
◇第4章 優しかった中央軍の上官
◇第5章 待望の帰国命令は突然に
◇第6章 出発待つ列、肺炎の赤ちゃん
◇第7章 さらば吉林、明るい歌声
◇第8章 おしめも薬も盗まれた
◇第9章 運転未熟、よく止まる列車
◇第10章 収容所入り、知人がもてなし
◇第11章 石の上、星空見上げ寝る
◇第12章 伝染病対策で2週間待機
◇第13章 吉林出発し24日目、出航
◇第14章 俳優らは宴会、私たちは粗食
◇第15章 今日も水葬、明日も水葬
◇第16章 5年ぶり、祖国の土踏む
◇第17章 大混雑の列車で山形へ
◇第18章 懐かしの駅、母が出迎え
◇第19章 平和憲法公布に大喜び
◇第20章 帰国の夫、遺族回りで多忙
◇第21章 舞鶴で亡き夫に「再会」
◇第22章 「私たちも加害者」と理解
◇第23章 40年ぶりの吉林、平和実感
◇第24章 残留孤児と家族のように
◇第25章 当時の家、そのままの姿で
◇第26章 孤児支援へ中国語を勉強
◇第27章 肉親捜し、名乗れぬ親も
◇第28章 孤児の永住、親身に手助け
◇第29章 息子家族も呼び寄せる
◇第30章 80歳から学校などで講演
◇第31章 戦争体験、必死に訴えねば


第1章 野垂れ死に、傷病兵の現実

 病院の近くには「血液百グラム三百円」という貼り紙がありました。輸血用で、買うのは病院です。そこに骨と皮だけの日本人が並んでいるんです。女性もいました。男も女も、生きていくためには何でもしたんです。命を守る、それだけです。切ないですよ。私が売血をしないで済んだのは、少しだけ恵まれていただけなんです。
 ある日、たばこ売りをしていて道に迷ってね。町はずれの線路脇に迷い込んだの。その時、長い貨物列車がやってきて目の前で止まった。列車には寝間着姿の病人が乗っていたんです。その人たちが、まるで汚い物のように列車の上からぽんぽん捨てられていったの。
 病院に入院していた日本兵です。みんな生きているのよ。ただ動けない、立てない傷病兵たち。1千人くらいいましたね。捨てたのは八路軍だと思います。自分たちの病人を収容するために、病室を空けるためでしょ。歩けた傷病兵は病院から抜け出して町に行き、「お金をください」と物乞いをしていた。
 捨てられた兵隊さんの中には、何とか少しだけ動ける人もいました。にじり寄るように近くの立ち木の根元まで行って横になっていた。でも、話せるほどの元気はないの。私を見つけると、私の水筒を指さして「頼む頼む」と拝むような格好をするんです。
 涙がこぼれてね。でも1千人でしょ。どうしようもないんです。だんだん夕焼けの空が暮れていく。その中で死んでいくんです。
 まだ若い人たちですよ。お国のためという名目の野垂れ死にです。殺されるために召集されたようなものですよ。こういう人たちもきっと、名誉の戦死といわれたのでしょうね。これが戦争なんです。私ね、この人たちのお母さんや奥さんを思って、ただただ涙がこぼれました。
 こういうことを今の政治家は知らないからだめなんです・・・

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