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朝日新聞出版

南海トラフ379市町村の津波高

初出:2012年4月16日号
WEB新書発売:2012年4月20日
AERA

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 突然の発表だった。10メートル以上の津波が襲う可能性が、11都県90市町村に広がった。
 震度6弱以上の地震の恐れがある地域も拡大。不安と戸惑いの町をルポする。

◇海岸近くに住宅密集、高齢者が3分の1「できるは神頼み」
◇到達まで最短2分、住民アンケートで対策の意見は二分




 その報告書の冒頭では、こんな念押しがされていた。
 《想定地震・津波に基づき必要となる施設設備が、現実的に困難となることが見込まれる場合であっても、ためらうことなく想定地震・津波を設定する》
 駿河湾から四国、九州沖まで延びる海底の溝「南海トラフ」沿いの巨大地震について、内閣府の有識者検討会が3月末、想定を公表した。新たに示された数字は、それほど衝撃的だったのだ。

◎科学的に「最悪」想定
 今回の想定は、東日本大震災が「想定外」の被害をもたらしたことを教訓に、様々な仮定に基づく複数の試算から最悪の結果をつなぎ合わせ、算出されている。つまり、科学的に考えうる最大の震度と津波の高さだ。従来の行政による想定で考慮されがちだった「防災施設の状況」や「都市機能の保持」といった現実との兼ね合いを排除し、科学的な分析に徹したものだといえる。
 津波高については、プレートの動き方を変えて11パターンをシミュレーション。すべてのパターンを通じた最大値を示した。その結果、茨城県から鹿児島県まで大幅に想定が引き上げられた。中央防災会議が2003年時点で出した想定では、津波高10メートル以上の地域は2県10市町だったが、今回は11都県90市町村(東京都は離島)と大きく増えた。このうち6都県23市町村で20メートルを上回り、高知県の黒潮町と土佐清水市で30メートルを超えた。
 湾の入り組んだ地形や連動地震による津波の重なりなどから、地理的には近くても津波高では大きな差が出た地点も少なくない。また、東日本大震災と比べ、津波を起こす領域が陸寄りにあるため、1メートルの高さの津波が到達するまでの時間も短く、5分の猶予さえない地点がある。静岡県、和歌山県、高知県では最短でわずか2分とされた。
 震度分布では、震度6弱以上の恐れがある地域は24府県687市町村。従来想定されていた20府県350市町村から、総面積で3・3倍になった。
 検討会は、「次に起こる地震・津波を予測して検討したものではない」と強調し、冷静な対応と防災対策の充実を求めている。しかし、従来の対策や防災施設では対応不可能な数字がいきなり突きつけられた。自治体や住民の間には、不安と戸惑いが広がる。

海岸近くに住宅密集、高齢者が3分の1「できるは神頼み」――高知県黒潮町

 日本の渚100選にも選ばれた白砂の海岸が、4キロにわたって続く高知県黒潮町の入野地区。その一角にある神社の境内に、古い石碑が立っている。
 「安政津波の碑」
 江戸時代末期の1854年、安政南海地震の際に押し寄せた津波の被害を記したものだ。《大震動瓦屋茅屋共崩家と成満眼に全家なし……》。
 津波の高さは、8・5メートルに達したという。
 だが、今回想定された津波高は、その4倍以上の34・4メートル・・・

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