教育・子育て
朝日新聞出版

「窮屈な人生」の東大生VSグラミーめざす京大生 トップ大学頂上対決

2013年03月22日
(8900文字)
AERA

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 100万ダウンロードを突破したアンドロイド用ゲームアプリ「窮屈な人生」を開発したのは、超ネガティブ思考の東京大工学部3年生。YouTubeで18万回以上再生された「マイケル・ジャクソンの『スリラー』を全部、俺の声で歌ってみた」で人気なのは、京都大経済学部4年の韓国人留学生。両大学が育んだスーパー学生を紹介しつつ、日本のエリート養成大学として君臨する東大と京大を徹底比較する。

◇第1章 すごい東大生VSグランプリ京大生
◇第2章 東大と京大 大学力徹底比較
◇第3章 京大が目論む「ムホン」


第1章 すごい東大生VSグランプリ京大生

◎個性あふれるスーパー学生たち

 勉強はできて当たり前。プラスアルファの能力がなければ、尊敬されない。 IT、音楽、教育――各分野で活躍する東大生、京大生を取材した。
 
 すごい東大生がいる、と聞いて会いに行った。
 モデルルームのようなスタイリッシュな自宅で出迎えてくれたのは、100万ダウンロードを突破したアンドロイド用ゲームアプリ「窮屈な人生」を開発した東京大学工学部3年の永良慶太さん(22)。アプリで600万円もの広告収入を得て、レビューサイトの「アプリ・オブ・ザ・イヤー2012」最優秀賞も受賞した。


 企業顔負けの大ヒットアプリをたった一人で作ったスーパークリエーター。しかも物静かで礼儀正しく、ご覧の通り清潔感あふれるイケメンである。「勝ち組東大生」の典型のような永良さんだが、その内面は意外なほど「ダウナー系」だった。
 「アプリを作ったのは、自分自身が人生の窮屈さに追いつめられていたから。常に他人と競争して、自己主張して、という東大の空気に疲れていた」
 たしかに、「窮屈な人生」はその名前の通り、厭世的な世界観に彩られている。僕は心の迷宮に閉じ込められ、部屋から一歩も外に出られなかった。大都会トーキョーは弱者には厳しい世界だった――そんなストーリーに基づき、シューティングやパズルの要素を組み込んだ約30個のステージが用意されている。各ステージのタイトルも、「東電なんてぶっ壊せ」「さよなら世界、僕はもう疲れた」というネガティブさ全開のもの。



◎挫折と引きこもり経て
 小4からGIFアニメを制作し、その世界ではちょっとした有名人だった。東京学芸大学附属高校から東大理科1類に現役合格。だが、サークルや学生団体の代表、ボランティアなどにいそしむ「意識高い系」の同級生たちのノリに、ついていけないものを感じていた。
 「一般的なイメージと違って、東大生って、ただ勉強ができるだけじゃ尊敬されないんですよ。家が大金持ちだったり帰国子女だったりという学生も多い。郊外のニュータウンの平凡な家庭で育った僕は、そのなかで生きていくことがきつかった。途中から一人暮らしを始めましたが、都心の街は空が狭く、その空気にもなじめなくて……」
 もう東大を離れよう。そう思って休学して、米国サウスダコタ州の大学に留学した。だが周囲から隔絶された田舎町のキャンパスで、自己主張の激しい外国人学生に囲まれて、またもや永良さんは疎外感を感じる。結局、半年で帰国。3カ月間、自宅に引きこもった。
 留学中に感じた挫折感と、「もうどうでもいい」という帰国後の諦めの気持ち。そのなかで作ったアプリが、当たった。
 「ガツガツしたくない。他人を蹴落として生きるほどバイタリティーもない。ギスギスした競争社会のなかで生きる、そんな人々の共感を呼んだからこその100万ダウンロードだと思う」
 京大大学院工学研究科2年の大加戸彩香さん(25)は、土木工学を専攻する土木女子、「ドボジョ」だ。土木の持つ武骨なイメージとは対照的な華やか系美女で、大学2年のときにミスコン「プリンセス関西」京都代表にも選ばれた。4月からは総合商社で働くことが決まっているという、一見すると「超リア充女子」。だが、
 「かつては自分に自信がありませんでした」
 と言う。友人に勧められ、他大学の女子大生と知り合いたいという理由でミスコンに参加したものの、周囲の参加者が歌やダンスを披露するなか、自分には特技と言えるものなど何もない、と相当落ち込んだ。


 自信を取り戻せたのは、京大の同級生たちが、一途に好きなこと、やりたいことを追求している姿を見たからだった。
 「そうか、私は何もミスコンの参加者の女の子たちと同じ場所で勝負しなくてもいいんだ、と。私が好きなもの、私のアイデンティティーは何かと考えたら、『土木』だと気がつきました」

◎リケジョ、料理、科学
 父親の転勤で8回も引っ越しを経験して町づくりに興味を持ち、歴史を感じる町、京都で学びたいと京大へ進んだ。建仁寺で座禅を組み、貝原益軒の旅行記通りに京都を歩いた。
 「京大では、京都ならではの講義が多く、おのずと日本の『国土』を学べました。一方で、京大には世界に誇る最先端の学問がある。この振り幅の大きさのなかで6年間を過ごし、自然とバランス感覚が身につきました」
 「ドボジョ」を含めたリケジョ=理系女子の市場価値は高い。


 女性誌「ELLE」オンライン公式ブログで「Sallyの科学なごはん帖」を連載するのは、京大大学院農学研究科修士2年の平松紘実さん(23)だ。


 「もともと私、あまのじゃくなんです。王道の選択は、その先の展開が想像できて面白くないから、東大は選択肢にも入りませんでした」
 京大に入り、初めての一人暮らしで、思いがけず料理にはまった。ブログを始めると、「もっと読んでもらいたい」と欲が出て、数ある料理ブログと差別化するために、「どうして玉ねぎは炒めると甘くなるか」など食べ物と科学の関係を書くようになった。学部4年の時、学生から本の企画を募集する「出版甲子園」に「理系女子流 おいしいごはんの化学式」で応募。見事グランプリに輝き、本はこの春、出版される予定だ。
 ブログを書く中で、科学をもっとわかりやすく伝える仕事がしたいと思うようになった。「どうやったらメッセージを伝えられるか」を考えて、卒業後は広告事業に携わるつもりだ。
 「京大での6年間、『考える』ことを教え込まれました。学問だけでなく、自分自身についても悶々と考える時間がありました。知識を得るのは準備段階。そこから時間をかけて考えて自分の中で消化する。その時間を京大が与えてくれました」
 京都では、東京よりゆったりと時間が流れるのかもしれない。京大経済学部4年で韓国人留学生のヨウ・インヒョクさんは26歳。大学でマーケティングを学ぶかたわら、音楽活動に熱中し、兵役による休学も含めて大学には計8年間在籍した。将来の目標は、「グラミー賞を取ること」。


 小学校高学年のときに日本で過ごし、日本語はペラペラ。Jポップが好きで、ラルクアンシエルやゴスペラーズ、ポルノグラフィティなどを聴いていた。
 「日本の有名大学に行こう」と京大に進学。大学ではブラックミュージックにはまり、学内のアカペラサークルに所属して、全国のライブに出演した。
 「このまま普通に就職して、音楽を『ただの趣味』にはしたくない。だから、グラミー賞という、一生かけても取れないかもしれないものを目標にした」

◎芸大より東大へ
 今年1月に「マイケル・ジャクソンの『スリラー』を全部、俺の声で歌ってみた」という動画をYouTubeにアップし、またたく間に18万回以上再生された。「京大生」「スリラー」で検索すると、「何だこれ」「すごすぎる」という称賛の声が相次ぐ。一切の楽器を使わず、パーカッションやシンセサイザーなどのパートをアカペラで再現し、多重録音して仕上げたもので、細部に至るまで、見事に表現されている。
 それにしても、よく、こんなことを思いつきましたね。
 「動画があると、人に会ったとき、『自分の音楽はこれです』と示せるでしょう。スリラーを選んだのも、世界中の皆が知っている曲だから、というマーケティング的な考えからです」
 ヨウさんは高校生のころ、音大の声楽科を目指していたが、東大工学部4年生の常田俊太郎さん(22)も、周囲から東京芸術大学への進学を勧められていた。


 4歳からヴァイオリンを始め、有名コンクールで上位入賞した腕前。NHK交響楽団のコンサートマスターだった師に見込まれ、将来を嘱望されていた。芸大に受かる実力があるのに、東大を選ぶなんて、何ともったいない!・・・

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「窮屈な人生」の東大生VSグラミーめざす京大生 トップ大学頂上対決
216円(税込)

100万ダウンロードを突破したアンドロイド用ゲームアプリ「窮屈な人生」を開発したのは、超ネガティブ思考の東京大工学部3年生。YouTubeで18万回以上再生された「マイケル・ジャクソンの『スリラー』を全部、俺の声で歌ってみた」で人気なのは、京都大経済学部4年の韓国人留学生。両大学が育んだスーパー学生を紹介しつつ、日本のエリート養成大学として君臨する東大と京大を徹底比較する。[掲載]AERA(2013年3月18日号、8900字)

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