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朝日新聞出版

ストレスがあなたをダメにする ゼロにはできないその正体

初出:2013年4月15日号
WEB新書発売:2013年4月19日
AERA

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 体も心も何だか調子が悪いのは、もしかしたらストレスのせいかもしれません。悪い出来事だけではなく、楽しい出来事でも引き起こされ、増えることはあってもなくなることはない。どうしてもこの厄介者から逃れられないのであれば、向き合って強くなるのも一つの手。ストレスだらけの現代社会を生き抜く「メンタルマッチョ」を目指しませんか。

◇第1章 あなどれないストレスの正体/正しく知ればコントロールもできる
◇第2章 ストレスは書いて減らす/コレステロールは○、寝だめは×の新常識 


第1章 あなどれないストレスの正体/正しく知ればコントロールもできる


 頭の中を、なじみのない英語やカタカナが駆け巡っていた。
 ToDoリスト? タスク?
 支給されたばかりのパソコンを前に、突然、自分が無能な人間に思えてきた。
 東北地方のイベント運営会社の業務委託で、司会やアナウンス業をしていた30代の女性は、31歳のとき、会社から「契約社員にならないか」と誘われた。今までの仕事が評価されたと喜んだが、アナウンス業務に加え、事務作業もしなければならなくなった。
 パソコンが苦手で、パスワード設定に数日費やし、他の人が数分でできる作業に何時間もかかってしまう。会社の期待に応えたいと、ハウツー本を買い込み、夜中3時まで残業した。
 入社1カ月後には、「本業」のアナウンスにも自信が持てなくなっていた。それまでは台本がなくても平気だったのに、本番中、突然言葉が出なくなる。ステージの前で足がすくむ。
 体にも変化が出始めた。常に疲労感が取れない。なのに夜は頭がぎんぎんして眠れない。風邪もひきやすくなった。顔が痛くて、ペンで目の下を圧迫していないと耐えられない。まつ毛がボロボロ抜け、ほこりが入って目が開けられない。陰毛もごっそり抜けた。

◎SOS見逃して悪化
 徹夜続きで疲労がピークに達していたある日、衣装の採寸中に倒れた。だが、大きなイベントに向けて社内一丸となっている時期で、「休みたい」と言い出せるムードではなかった。
 入社4カ月目には吐き気がとまらなくなり、ある日、胃がつままれるような痛みが。救急病院で「胃腸炎」と診断された。
 翌朝、ベッドから下りようと床に足を着いた瞬間、激痛に襲われて再び病院へ。レントゲンを撮ると子宮が腫れていると言われ、紹介された別の病院で「子宮内膜症」と診断された。
 「ショックだったけど、体の不調の原因はこれだったのかとわかって、すっきりしました」
 それでも体の不調は収まらない。数週間後、突然すべてが嫌になり、イベントの本番を初めて休んだ。布団にくるまりながら、死にたいと考えた。理由もないのに涙があふれる。通っていた婦人科で症状を伝えると、心療内科の受診を勧められ、そこで「重度のうつ」と言われた。
 「昇進や、慣れないパソコン操作は大きなストレスになります。ストレスの影響は自律神経があるところには全部出て、めまいや胃の痛み、胸痛や、婦人科系など多様な症状が現れます」
 福島県立医科大学教授の大平哲也医師(心療内科)は、この女性の不調の原因はストレスだと指摘する。
 「ストレスには段階があって、体がSOSを出す警告期にサインを無視していると、心や体が反発する抵抗期、疲れきってうつ病など精神的な症状も出てくる疲憊期と進行していきます」
 この女性のケースでは、たくさんのSOSを見逃して病気が悪化してしまったのだ。
 ダイエットやサプリ依存、頭痛、肩こり、腰痛、不眠など、ここ3カ月間にアエラで紹介した健康関連の記事は、どれも原因にストレスが隠れていた。3月24日付の朝日新聞は「腰痛2800万人 8割原因不明…心の悲鳴かも」と報じ、学会でもストレスも腰痛の引き金になると認定されたことを紹介している。精神的ストレスで心を病むことは想像しやすいが、体にもストレスの影響が出るという認識が定着しつつある。
 いまでは日常的に使われるストレスという言葉、いつごろから使われるようになったのか。朝日新聞の記事検索が可能な1984年8月以降で調べると、「ストレス」が使われた記事は、85年の112本から右肩上がりに増え、阪神大震災後に心的外傷後ストレス障害(PTSD)が注目され始めたころの97年に1千本を突破。東日本大震災が起きた2011年には2045本と2千台に。12年は1911本となっている。
 この間、2度の大震災に加え、長引く不況による職場の人減らしや成果主義導入による働き方の変化、急速に普及したIT化など、ストレス要因は確かに増えた。サービス業の従事者が増えるにつれ、人相手に神経をすり減らす職場も増えている。

◎IT化で気づかない
 アエラネット会員へのアンケートでも日頃ストレスを感じていると自覚している人は、「時々感じる」(48%)と「頻繁に感じる」(42%)を合わせると9割に達する。ストレスが原因と思われる体調不良の経験があったと回答した人は87%にものぼった。
 横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長で、年間7千件のメール相談に回答している山本晴義医師は、ストレスによる体調不良者急増の背景としてIT化を指摘する。
 「ずっとパソコンと向き合って24時間誰ともしゃべらない人や、隣の人とのコミュニケーションをメールで済ませる人もいる。ストレス過多の人がいても周囲がその人の顔色やいつもと違う様子に気づけないまま本格的な心身の病気に移行し、休職するケースも増えています」

◎心臓突然死や脳卒中も
 ストレス負荷があまりに「日常」になり、その自覚すら難しくなっている。
 都内の総合病院で夜勤専従の看護師をしていた30代の女性は、20代後半のある日、起きたら突然左耳が聞こえなくなっていた。近所の耳鼻科を受診したが原因は不明。ステロイドを処方してもらうと聴力が徐々に戻り、1カ月ほどでほぼ回復した。
 当時、救急室で14時すぎから翌日午前10時すぎまで勤務していた。ひっきりなしにやってくる救急車に2人で対応し、さらにリーダーとして後輩や研修医のフォローに加え、患者をできる限り受け入れられるようベッドの管理や調整を行う「ベッドコントロール」を担当していた。その上、日中は学校にも通っていた。ハードな毎日だったが、疲れは特に感じていなかった。
 難聴発症から2カ月後、今度はマイコプラズマ肺炎にかかり、41度の熱を出した。1日に30人インフルエンザの患者を診てもうつされない自信があったのに……と落ち込んだ。病院へ行くとそのまま入院。20年ぶりにぜんそくも再発した。
 入院中、「勤務に穴を開けちゃった」と、後ろめたい思いでいっぱいだった。食欲がなくなり、3週間で体重が約10キロ落ちた。退院したが体力が回復せず、再び1週間入院した。医師から言われた。
 「原因はストレスだろう。精神安定剤を飲んだらどうか・・・

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