教育・子育て
朝日新聞出版

もはや暴力!PTA役員選び 「平等」な強制無償奉仕の現実

2014年05月30日
(14100文字)
AERA

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 自分からやりたがる人もいるだろう。でも、そんな人はマレだ。話し合い、根回し、夜回り、じゃんけん、くじ引き、推薦……果ては全員参加か、ポイント制か。日本中の学校で、理不尽渦巻くのがPTA役員選び。妊婦だろうと、持病があろうと、介護する人がいようと、父子家庭だろうと、容赦なくお鉢は回ってくる。やめることができないなら、変えるのも一つの手。情報公開、事業仕分け、IT化で、役員選びも活動自体も改革した猛者たちに、今こそ学べ。

◇第1章 切迫早産なのに免除されない
◇第2章 必要? 不要? 賛否両論
◇第3章 事業仕分け、スリムに改革


第1章 切迫早産なのに免除されない

 39度の熱にうかされながらとった電話は、役員に選ばれたという知らせだった。
 2年前の4月のことだ。神奈川県に住む女性(42)は次男が公立小学校6年になった最初のクラス懇談会の日に寝込んでしまい、出席できなかった。PTAの役員を選出する、一年で最も重要な会だ。
 専業主婦だったが、夫が失業したため、宅配便のパートを始めたばかりだった。昼食もとれず午後5時まで働きづめで、帰宅すると中学生から幼稚園まで3人の息子の面倒をみる。夫の再就職のめどは立たず、家計と将来の不安がのしかかり、体調も崩しがち。とてもPTAどころではなかった。
 当時のPTA会長は「できる人ができる時に」というスローガンを掲げていたし、すでに長男と次男が低学年の時に1回ずつ広報委員を経験していた。事前の希望調査には、たとえ役員になっても実働は難しいと述べ、書きたくもない家庭の事情を正直に書き添えた。
 しかし「欠席裁判」は非情だった。担任から電話で伝えられた懇談会の様子はこうだ。

◎家庭の事情を読み上げ
 案の定、役員決めは難航。欠席者を含めたくじ引きで女性が「当選」し、調査票に書いた家庭の事情を出席者全員の前で読み上げられた。同情する空気は流れたものの、誰もが目を伏せる。積極的に役員を引き受けてきた一人の母親がもったいぶって言った。
 「私がまたやってあげてもいいけど。お願いされたらね」
 彼女に頭を下げるか、代わりの人を探すか、自分でやるか。結局「できる範囲で」と広報委員を引き受けた。会報の原稿を書くため連日深夜までパソコンと格闘し、年末年始の休みは潰れた。委員会には出席できず、委員長に資料を届けてもらうなど周りの負担も増やしてしまった。女性は憤る。
 「個人情報をさらされたうえに無理やり負担を押し付けられた。非常に暴力的なやり方です」
 年度末から年度初めにかけて、各小学校でPTA役員を決めるための会議が開かれている。我が子をPTA行事に参加させている親たちは、学校に非協力的だと思われたくない気持ちもあり、役員をやらなければという義務感がある。しかし仕事や家庭の事情は人それぞれ。できない、やりたくない、やらない人はズルい――。さまざまな思惑が渦巻き、紛糾したり、静まり返ったり。話し合いで埒が明かなければ、じゃんけんやくじ引きになる。

◎仕組まれた?くじ引き
 メーカー勤務の女性(40)は引っ越してすぐ、長男が転入した東京都内の公立小のPTA役員から、来年度の役員になるよう迫られた。1年後に引っ越す予定だときっぱりと断ったが、
 「絶対にお引っ越しは確定? でもこの『係』なら……」
 など、しつこく勧誘された。たった1年半お世話になるだけなのに。腹立たしかったが、役員の下にあたる「係」までは断り切れなかった。問題は、くじ引きでその係のリーダーにさせられたことだ。
 ほかのメンバー同士はみんな顔見知りで仲が良い。女性はリーダー決めの日に仕事で遅れると伝えておいたら、到着してすぐ、上層部の役員が手に持った数本の割り箸くじを引かされた。
 「リーダー決定!」
 割り箸の先端の小さなマル印を見て、役員が声をあげた。ほかのメンバーは先に引いたの? すべての割り箸に印がついていたのでは……?
 「しまった! 仕組まれた」
 問い詰める勇気はなかった。ほかにも遅刻や欠席の人がいたため、残った割り箸はそそくさと片付けられ、その場で数冊のノートや資料がどっさり入った紙袋を渡された。
 「いなくなる人に大変な役目を与えておいたほうが、決める側は後々楽ですよね。百戦錬磨の役員たちを甘く見ていました」
 やりたくない人に、いかに押し付けるか。各PTAが工夫を凝らす選出方法は以下の通り。これらを複合させた手法もある・・・

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もはや暴力!PTA役員選び 「平等」な強制無償奉仕の現実
216円(税込)
  • 著者ライター・三宮千賀子、山口亜祐子、AERA編集部・小林明子
  • 出版社朝日新聞出版
  • 出版媒体AERA

自分からやりたがる人もいるだろう。でも、そんな人はマレだ。話し合い、根回し、夜回り、じゃんけん、くじ引き、推薦……果ては全員参加か、ポイント制か。日本中の学校で、理不尽渦巻くのがPTA役員選び。妊婦だろうと、持病があろうと、介護する人がいようと、父子家庭だろうと、容赦なくお鉢は回ってくる。やめることができないなら、変えるのも一つの手。情報公開、事業仕分け、IT化で、役員選びも活動自体も改革した猛者たちに、今こそ学べ。[掲載]AERA(2014年3月3日、4月7日、5月26日号、14100字)

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