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朝日新聞出版

30〜40代が脱ニッポン シンガポールに永住します

初出:2016年1月18日号
WEB新書発売:2016年1月28日
AERA

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 シンガポールに住む日本人は3万5千人余り。存在感を増しているのは、移住して根を張る30〜40代の起業家や経営者という。子どもは現地校に通わせる。義務教育は小学校のみ。「出来の悪い生徒にそれ以上の教育を与えるのは非効率」というシンガポール的価値観で、朝から晩まで勉強漬けになる。メイドは住み込みで月9万円かかるが、所得税から全額控除できる。「日本で息を切らして保育園に迎えに行き、子どもにコンビニの肉まんを食べさせながら家路を急いでいたころに比べて、心のゆとりが違う」。人種が多様で、英語が多少下手でも見下されない。オープンな国民性。欧米よりもグローバル。シンガポールで暮らす働き盛り世代に、その生き方を選んだ理由を聞いた。

◇シンガポールの「和僑」たち/仕事も教育も競争社会で生き抜く
◇奇跡的成長の原動力は危機感とハイパー能力主義/建国50年でアジアで最も豊かな国に


シンガポールの「和僑」たち/仕事も教育も競争社会で生き抜く

 東京でいえば丸の内だろうか。オフィス街にそびえ立つ高層ビルの32階。にこやかに出迎えてくれたのは三宅隆文さん・真美さん夫妻だ。シンガポールの永住権を取得し、この高級コンドミニアムに息子2人と暮らしている。隆文さんは「サンマルクカフェ」を展開するサンマルクホールディングス東南アジアのCEO、真美さんは高級レストランの広報などをフリーランスで請け負う。
 外務省の海外在留邦人数調査統計によると、シンガポールに住む日本人は3万5千人余り(2014年10月時点)。企業の駐在員が多くを占めるが、相続税、贈与税、キャピタルゲイン課税がない同国は、節税目的の移住でも注目されてきた。現地のプライベートバンカーによると、実際に増えているのは資産家よりも30〜40代の起業家や経営者だという。とりわけ存在感を増しているのが、移住して根を張る三宅さん夫妻のような「和僑」だ。
 夫妻のうち、シンガポールに先に来たのは真美さんだった。長く外資系ホテルで働いていたが、顧客だった台湾人実業家に請われて個人秘書となり、08年、当時5歳と3歳の息子たちを連れてきた。



◎主夫から奮起し社長に
 一方の隆文さんはフランスで修業を積んだ元ソムリエ。フォーシーズンズホテルで働いていたとき、「欧米人に使われるローカルスタッフで終わりたくない」と、英語、経営、組織論などを猛勉強した。ホテルの常連客だった会社社長から声をかけられ、海外の不動産投資・証券化の世界へ。ビジネスは急拡大し、ニューヨークやロサンゼルスでの商談にプライベートジェットで駆けつける日々に酔いしれたが、サブプライムローン問題で事業は続かなくなった。
 一から出直そうとニュージーランドへ留学してから、シンガポールの妻子に合流したが、
 「リーマン・ショックで仕事もなくて。ご飯をつくって仕事に行く妻を見送る主夫でした」
 隆文さんはそこから再び奮起。日系食品メーカーの営業部長、高級レストランの立ち上げなどに携わり、同国の飲食事業に精通した。12年、シンガポールに進出したばかりのサンマルクから声がかかった。
 夫妻が来てすぐに永住権を取得したのは、この国と相性がいい、と感じたからだ。良い意味でも悪い意味でも合理的。ビジネスの意思決定も速い。
 「華僑の国であり、もうかるかもうからないかが全ての判断基準。飲食店が5年後に生き残る確率は1〜2%」(隆文さん)



◎現地小学校は勉強漬け
 合理性優先で、競争が激しいのは、教育も同じだ。夫妻は子どもたちを日本人学校でもインターナショナルスクールでもなく、現地校に入れた。シンガポールは現地校のレベルが高く、07年に米国から移住した著名な投資家、ジム・ロジャーズも娘をわざわざ入学させたほどだ。
 「当時はあまりお金がなかったし(笑)、ここでしかできないことを経験させたかったから」
 そう語る真美さんはある日、長男が算数の宿題で電卓を使っているのを見つけ、「ズルはダメよ」と注意した。すると息子は「違うんだよママ」。聞けば学校では「式がわかればいい。計算は電卓で」と教えられていた。シンガポールでは効率的=善なのだ・・・

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