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朝日新聞出版

ツカエナイ人でいいじゃない たかが仕事、人生捧げるな

初出:2016年2月15日号
WEB新書発売:2016年2月25日
AERA

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 本来、仕事は人生の一部分のはずだ。効率主義や顧客至上主義が広がる中で、長時間労働やサービス残業がはびこり、何かが狂ってしまう。人生が仕事に搾取され、枕営業やクレームへの土下座、離婚・うつ発症……。「仕事しかない人生になるくらいなら、上司にとってツカエナイ人になろう」(43歳女性)。人生を狂わされた人々のエピソードから「仕事」を見つめ直す。

◇[追い込まれて一線を越える]――安月給カバーのため報奨金を懐に入れた
◇[人間らしさが奪われる]――定時退社する同僚に「死ねばいいのに」
◇[人生が狂わされた]――馬車馬のように働き、顔面麻痺、うつ発症


[追い込まれて一線を越える]――安月給カバーのため報奨金を懐に入れた

 こんなことしていいのだろうか。都内に住む40代の男性は、迷いを打ち消すように、こうつぶやいた。
 「だって、いつもサービス残業させられているじゃないか」
 その言葉に背中を押されるようにして、報告書にうその金額を書き込んだ。
 男性の職業は旅行会社の添乗員。ツアー中に立ち寄る土産店では、参加者が購入した売上額の一部が旅行会社に「報奨金」として現金でキックバックされる。男性は会社に売上額を少なめに報告し、報奨金の一部、数千円を懐に入れた。
 「きちんと待遇してもらえればそんな気持ちは起きなかっただろう。でも、そうでもしなければ安月給で食えないですから」
 捏造、着服。本来、決して越えてはいけない境界線を越えてしまったのは、熱心に働くほどに報われないという不満や会社への怒りの気持ちからだ。
 大好きな旅にかかわる仕事がしたい。そう思って添乗員になった。男性は、高校卒業後、2年間専門学校で学び、「国内旅程管理主任者」の資格を取った。学費は数百万円もかかった。だが、夢をかなえてみると給料は安く、残業代もない。新人の頃は手取りが10万円を切っていた。40歳を超えた今も、専門学校時代に借りた奨学金の返済が残っている。

◎極寒の中2時間準備
 雇用形態は派遣社員。日当は1万円程度でボーナスはない。ツアー中は24時間拘束されるし、常に添乗員としての振る舞いが求められ、何かあれば夜中でも対応しなければならない。
 例えば冬の北海道のツアーでは、極寒の中、出発の2時間前から、凍結したバスのフロントガラスにお湯をかけたり、暖機運転をしたりして準備する。それらの業務は「サービス残業」だ。正直、報われていないと思う。ツアー参加者が記入するアンケートで勤務態度が評価され、その結果で次の仕事が決まる。内容次第では反省文や始末書を書かされたり、乗務停止になったりすることもある。
 添乗員には、旅行会社の社員が考えたツアープランが送られてくるが、男性からすれば「机上の空論」。彼らはタイトすぎて無理があるプランを作っておきながら、旅程表通りに回らないと怒る。ファクス一枚で指示され、人間らしい扱いを受けている気がしない。


 本来、仕事は人生の一部分のはずだ。しかし、効率主義や成果主義、顧客至上主義が広がる中で、長時間労働やサービス残業がはびこり、何かが狂ってしまう。人生自体が仕事に搾取され、追い詰められて一線を越えてしまったり、人間らしさがなくなってしまったり、人生設計が狂ったり、という人もいる・・・

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