経済事件が起きるたびに社外の目、社外取締役の役割の重要性が問われている。5年半前に行われた阪神と阪急との経営統合。「物言う株主」と言われたM&Aコンサルティングの村上世彰氏が阪神電鉄株を大量に買い占めると、阪神側は慌てふためき阪急の軍門に駆け込んだ。村上氏は別のインサイダー取引容疑で東京地検に逮捕された。当時のキーマンで阪神の大物社外取締役だった玉井英二氏が統合の舞台裏を語った。
〈第1章〉
突然、村上氏が私に相談しにきた
阪神首脳陣は会わないと拒否
村上氏が順番に取締役に質問
道場破りのように打ち負かされた
社長ら4人が上京し正式に依頼
〈第2章〉
三つ揃えば強力なコンテンツだ
一発で片が付く阪急が急浮上した
最初の議事録になかった私の発言
〈第3章〉
TOBめぐり綱渡りの駆け引き
アンチ村上世論に虎ファン扇動
村上氏「能力際立った人」とコメント
村上氏と、彼が取得した阪神株をどうするか折衝をしていたときは、私は阪神電鉄の社外取締役でした。4期8年在任し、06年6月29日の株主総会で退任しています。
世の中の人は、「村上はとんでもない乗っ取り屋で、銭ゲバで、うまいこと逃げた」としか思っていないでしょう。私に言わせればそれは間違いです。彼はその後も陰徳を積んで、NPO団体をサポートして多額の私財を投じています。東日本大震災があったあとも、彼はNPOのなかに紛れ込んで、シンガポールから馳(は)せ参じて炊き出しなどをしている。このままでは誤解されたままだから、話をしたらどうかと勧めました。しかし、まだ表には出たくないと言う。
彼と同じように、私も浮かばれない面もありました。誤った報道によりマスコミにたたかれたし、あのときに阪神電鉄が私にとった態度は許せません。それで合併劇を通じて、コーポレートガバナンス、会社というものは何だったのかをもう一度ふり返ってみようと思ったのです。
《玉井英二氏といえば、住友銀行副頭取時代にイトマン事件で、あえて磯田一郎会長に捨て身で諌言し銀行を危機から救った著名なバンカーだ。大昭和製紙の経営立て直しなどにも敏腕をふるい、銀行退任後は住友クレジットサービス会長などを務めた。07年からは製造日改ざんなどで問題となった和菓子の「赤福」の立て直しのため会長を務めている。乱世に活躍した経営のプロである。
村上氏が東京地検特捜部にニッポン放送株のインサイダー取引容疑で逮捕されたのは06年6月。一審は懲役2年の実刑を言い渡されたが、二審では懲役2年執行猶予3年(最高裁で確定)とされた。村上氏に当初インサイダーに該当するという強い認識がなかったことなどを、実刑をさけた理由にあげている。》
あとから説明しますが、阪神のような企業対応は、大なり小なりほかの会社にも共通して巣くっている前時代的な体質だと感じました。会社の後継者を選ぶときには、権力者は自分の権力を保持するために矮小化した後継者をつくります。あげくの果てには破綻がくる。こういう事例がいくらでもあります。阪神もまさにそうで、以前会長だった久万(くま)俊二郎さんは、ちょっと個性的ではあったけれども、なかなか思慮にも富んだ人で、人間味もあった。しかし、自分が社長を辞めるときに、手塚昌利という人を後任にした。
手塚さんは非常に温厚篤実な人ですが、たくさんの部下を引き連れて強烈なリーダーシップを発揮するタイプではありません。無難に職務を全うしたあとで、自分の後任に西川恭爾(きょうじ)という国鉄の技術屋さんを、少し前にスカウトして社長にした。社内の心ある人からみると、この種の問題には極めて不向きなため果たして大丈夫かと映ったようです。手塚さんも一時は別の副社長を推したそうですが、久万元会長が、「やっぱり西川がよかろう」ということで決まったと聞いています。
平穏なときはそれでもいいのでしょうが、100年に一度の大難が訪れたときに、手塚会長は、多少体調的にも問題があったものですから、十分な経営判断をするには若干難があった気がします。
こうしたトップ体制の中で大量の株が一気に村上氏に握られたという、ショッキングなことが起きた。彼らは周章狼狽(ろうばい)して、結局何をしていいのかわからなくなった。これは不幸なことでした。
村上氏が大株主として名乗りをあげて登場したとき、最初に東京の私のところへ来たんですよ。05年9月22日でした。村上氏が言うには・・・
![]()
5年半前に行われた阪神と阪急との経営統合。「物言う株主」と言われたM&Aコンサルティングの村上世彰氏が阪神電鉄株を大量に買い占めると、阪神側は慌てふためき阪急の軍門に駆け込んだ。当時のキーマンで阪神の大物社外取締役だった玉井英二氏が語る統合の舞台裏とは。[掲載]週刊朝日(2012年1月20日号〜2月3日号、19900字)
スマートフォン、iPadでも読めますこの商品のアドレスをメールで送る
![]()
WEB新書の料金のお支払いはクレジットカードでの決済となります。朝日新聞社が提供する決済・認証サービス「朝日新聞Jpass」への登録および、購読手続きが必要です。